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好きなだけ太る自由

カントに続き、ニューヨーク市の「ソーダ・バン」について議論をした。ソーダブレッドじゃなくて、ソーダ規制ですよ。

肥満防止対策としてニューヨーク元市長ブルームバーグが推進した条例で、ニューヨーク市内のファーストフード店、レストラン、スポーツスタジアム等で16オンス以上(約470ミリリットル以上)の炭酸飲料の販売を禁止するものだ。去年3月に導入されるはずだったが、その前日にニューヨーク州の裁判所が「独断的で」「恒久的な」条例だとし、施行は中止となった。今年6月にアルバニーの控訴裁判所で再考される見通しだ。

パターナリズム(父権主義)とロバート・ノージックのリバタリアニズム(自由至上主義)について講義があったばかりなので、では「ソーダ規制」は父権主義的であるか?リバタリアンはどういう理由を述べて「ソーダ規制」に反対すると思う?という内容の議論だった。

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コカ・コーラの宣伝 (1953年)。どうでもいいけど、女の子が持っている食べ物が気になる。ポップコーン?おかゆ?カリフラワーにも見えなくない。Not pictured: obese children.

詳しい説明は省くが、ちょっと面白い発言があったので紹介する。

ソーダ規制は人の権利を侵すので父権主義的だと誰かが言ったので、「それはどんな権利だと思う?」と私が聞くと、一人の生徒がこう発言する。

「誰にだって好きなだけ太る権利がある」

クラスルームの全員が爆笑。

「これは面白い。では仮に〈好きなだけ太る権利〉というのがあるとしよう。導入されたとしたら、ソーダ規制条例はその〈好きなだけ太る権利〉の侵害に相当する?」と問う。

「16オンスのソーダを二つ買えばいいことだから、侵害にならない」と他の生徒が言う。

「ハンバーガーを沢山食べてもいいし」ともう一人が言って、また皆で笑う。

「そうだね。たとえ〈好きなだけ太る権利〉があったとしても、太るプロセスがちょっと面倒くさくなっただけでは侵害にならないよね。じゃあ、侵される権利は一体どんな権利?」

「う~ん、じゃあ〈32オンスの飲み物を買う権利〉」と誰かが言って、また爆笑。

「〈好きなだけ太る権利〉とか〈32オンスの飲み物を買う権利〉とかが仮にあったとしてもまだ問題点があるよね。例えば〈好きなだけ太る権利〉と〈フリースピーチの権利〉(言論の自由)を比べてみよう。どっちのほうが大事だと思う?」

元気な返事が返ってくる。「もちろん、フリースピーチ!」

「だよね。そう言ってくれて、ほっとしました。すると〈規制Aを選ぶと5つの権利が侵害されるが、規制Bを選べば6つの権利が侵害されるので、より侵害が少ない規制Aを選ぶべき〉というアーギュメントが使えなくなってしまうよね。」

「規制Aによって阻まれる5つの権利の中に、とても大事な権利が含まれているかもしれないから。」

「そのとおり。ではそうすると何等かの基準を使ってこの権利の方があの権利のほうより大事、と決めなければいけない。」

「でもその基準を決めるのに、権利の枠外の違う何かをまたレファレンスしなければなりません。」

「すると新たな問題ですね。」

という風にディスカッションが進む。

教授はもちろんそうだけれど、ティーチング・アシスタントも毎週毎週、新しいレッスンプランを作らないといけないのでけっこう大変だ。TAが盛り上がらないと生徒も盛り上がらないので、早朝でもなんでもこんなに面白いことはまずない!というくらいの元気とエネルギーをアピールするように心掛けている。普段の私は芋虫レベルのエネルギーなので、教え終わると毎回ぐったりである。

そのぐったり状態のまま、サファリさんに誘われて市内のカフェでしばらく一緒に仕事をし、腹ごしらえ。「サニー・プラター」とかいういかにも元気が出そうなものを頼んでみたら、普通のフレンチ・トーストが出てきた。

というわけで、昼ごはん。フレンチ・トースト(二枚)。スイカ。コーヒー(二杯)。

仕事がひと段落し、サファリさんが気分転換しに行こうというので、大した用もないのにIKEAに行く。黄色い斑点のついた葉がかわいらしい小さな植木と、グラス、ディナーパーティーをするとき用の(いつそんなカッコイイことするのか知らないけど)ペーパー・ナプキン等を買う。

ところで、IKEAに来ている人々は、何故か必ずぐったりしてアンハッピーな様子である。レジを通り抜けたところで、げっそりしたおじさんとおばさんが無言でシナボンを食べていたりする。哀愁漂う光景だ。シナボン自体が物悲しい。

夜はバーに行こうと友人に誘われていて、行く気満々だったのに、家に帰ってきてソファーにちょっと座った瞬間、気絶するように眠り込んでしまった。起きたら深夜0時になっていた。ざ・ふぁーむ辺りの終電は早いし、バーも朝の2時に閉まってしまうし、もうこれはベッドにもぐりこんで寝てしまおうと思ったのだが、ネットフリックスで『刑事コロンボ』を二本も観てしまう。

最初の頃のエピソードで、ピーター・フォークが実に若々しい。髪も真っ黒。これはこれで、とても楽しい金曜日の夜。



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by majani | 2014-04-28 18:57 | 院生リンボー

カリフォルニア、ニューヨークを経て、ボストンにやってきた学者のブログ。海外生活、旅行、日常の記録。たまに哲学や語学に関するエッセイもどきも。


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