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理不尽な亀

スワヒリ語の授業で、自分の文化の昔話をスワヒリ語で書き、それをクラスで発表するという全く意味不明な宿題が出た。

ケニヤやタンザニアの昔話をスワヒリ語の原文で読むほうがよっぽど合理的なのではないかと疑問を持ちながらも、早速宿題に取り掛かる。幼いときに読んでもらった本など、テレビで観ていた『日本昔話』を思い出したりして、「如何に明確に詳細を覚えているか」と「如何にスワヒリ語に訳しやすいか」という二つの基準で昔話を選択する。前方が良くても後方が全然駄目だったり、翻訳がいけそうでも話がどうやって完結するのかうろ覚えだったり、これがけっこう難しい。

一寸法師にしようかと思ったが、「一寸」を説明するのがまず面倒くさいのと、小槌なんてややこしい物は絶対に避けたい。猿蟹合戦の臼にも同じ問題があり、その上、蜂はともかく栗やら牛糞やらが蟹の子供と敵討ちをするのをスワヒリ語で面白く語る自分がどうしても想像できない。「何故牛糞が動いたり喋ったりしているのだ」と先生に突っ込まれて終わりそうだ。

そこで候補にあがったのが浦島太郎。亀という言葉を覚えているし、海と魚も持って来いだ。竜宮城のご馳走シーンを愉快に伝えられそうな変な自信が沸いてくる。玉手箱は普通の「箱」にしてしまってもなんとかなるだろう。よしよし、これで決まりだ!と張り切って、翌日クラスに行った。

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歌川国芳(1852年)。浦島太郎


そもそもスワヒリ語を習おうという人が少ないせいか、私が入っている中級のクラスは私を含めたったの二人しか生徒がいない。しかももう一人の生徒はケニヤで生まれ育ったれっきとしたケニヤ人で、流暢なスワヒリ語で喋れるのにも関わらず何故かこのクラスにいる。私のモタモタしたスワヒリ語を聞いていて何が楽しいのか、なでぃーむ君よ。

そのなでぃーむ君がインフルエンザで休んでいたので、逃げる場なく一人で先生と向き合うことになる。(先生はケニヤ人で、渡米する前は言語学をナイロビの大学で教えていたらしい。)浦島太郎の話をスワヒリ語でしたら、先生はしばらく首を傾げて腕を組んでしまった。

「その亀は助けられたんじゃないのか」と先生が聞く。

「そうです。助けてもらったから海の城に連れて行くのです。」

「そうか…」

なんだか納得がいかない様子なので、私のスワヒリ語に何か間違いがありましたかと質問をすると、先生はプンプン怒ってこう言う。

「助けてもらったくせに、男にとんでもないプレゼントを渡すとは、理不尽極まりない。実に理不尽な亀である。」

確かに、言われてみれば理不尽な贈り物である。

「えーと、亀自身が渡したわけではないと思いますが」と適当な言い訳をしても、先生はまだ不満な様子で、

「子供にこんな話をしているのか。しかし教育上悪いんじゃないか。教訓は一体なんだ?亀を助けるなという教訓なのか?!」と今度は混乱し始めている。

参ったなあ、理不尽なウミガメに囚われているよ。しかしそこで「亀にこだわりすぎですよ」とも言えず、「こんな昔話もあるんです、ちょっと聞いてください」とごまかし、こんなこともあろうかと非常時のためにバックアップとして用意してきた舌切り雀の話をする。バックアップを用意してきた自分、偉いなあ。

雀は前もって辞書で引いておき、ショレワンダ( shorewanda )という言葉を使った。葛篭は小槌同様、直訳が存在しない感じなので、玉手箱方針で普通の「箱」、サンドゥーク(sanduku )にする。

すると今度は先生は大いに喜び、拍手までされてしまった。私のパワフルなストーリーテリング技術と表現力に感銘を受けたのだ、きっと。

「これは分かりやすくて良い話だ。実に良い教訓だ」と褒めて(?)下さった。

もう何でもいいです。めでたし、めでたし。


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by majani | 2014-05-20 15:43 | 言葉と物

カリフォルニア、ニューヨークを経て、ボストンにやってきた学者のブログ。海外生活、旅行、日常の記録。たまに哲学や語学に関するエッセイもどきも。


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