国中の人々が七面鳥やクランベリーソースを買っている間、私はほこりまみれになって砂漠でサバクワタオウサギを追いかけていた。
泳ぎつくように待たれた一週間の感謝祭休暇である(大げさ)。皆が帰省を控えていて学部は少しばかり活気付いているように感じられた。私は去年は家で感謝祭ディナーをしたが、今年は南カリフォルニア、そう、南デモアリフォルニアへ旅に出ることにしたのだ。
一緒に旅をするのは、いつの間にかすっかり動物探しの仲間になっているヘブンフィールドさんである。旅の最終目標はジョシュア・ツリー国立公園だ。途中でロサンゼルスで三日過ごすことに。
大人になってからロサンゼルスを訪れるのは初めて。実は行かず嫌いの街だ。東海岸に住んでいたとき、ニューヨーカーはサンフランシスコを愛することは許されているが、ロサンゼルスは必ず嫌悪しなければならない、という暗黙のルールがあった。私は別にニューヨーカーではないから勝手にしていいのだけれど、ロスはなんとなく馬鹿にされやすい街である。サンフランシスコ人の友人もロスの話になるとクスクス笑いだす。どうしてだろう。その理由を突き止めるため、ではなくて、同じカリフォルニアでも北と南でずいぶん文化の違いがあるのだろうから、それを経験してみようではないかと思ったのがこのスタインベック式ロードトリップの始まり。
ドライブは7、8時間かかる。道中でクリスマスツリーや果物を売っているのを見る。ところで、ギルロイからロサンゼルスまでつながっている高速の間はニンニク畑が多いため車内でもニンニクの香りがするらしい。ヘブンフィールドさんと二人で張り切ってクンクンするが、何も匂わなくて残念。
山を越えるとしばらく平らな柑橘園の風景が続く。重い宝石のような果物がずっしりと生っている蜜柑の木がまるで私たちを見送るように枝を掲げて並んでいた。
途中でストックデールという町で休憩をしているとき、ガソリンスタンドの売店で気になるものを発見。「メキシカンコーヒーをどうぞ」というサインの下に、コーヒーポット。騙されたと思って試しに買ってみたら、騙された。クローブだろうか、何かのスパイスがほのかに香るが、それ以前にただまずいコーヒーである。ガソリンスタンドのコーヒーで何を期待していたのだろう。
外に出て青い屋根の高速パトロールの建物のほうをぼーっと眺めていると、どうしてだか煙草が吸いたくなる。
ロサンゼルス、ましてや砂漠にたどり着くのはまだしばらくかかるが、別に急ぐ旅ではない。ひょろっとしたヤシの木の下で車のボンネットに腰かけ、怪しいメキシカンコーヒーをすすりながら思った。急がない旅なんて、本当に久しぶりだ。
ここに旅の記録を残しておきたいと思う。
Or me.