南デモアリフォルニア旅行記の続き。
ロサンゼルス出身のサファリさんに勧められ、
Getty Villa 美術館を訪れた。古代ギリシャ、ローマ、エトルリア文明の芸術品を中心とし、丘の上からサンタモニカの美しい海が見渡せる、古代ローマ風の大邸宅にある美術館だ。
美術館の入口はヴィラの円形劇場(amphitheater)の隣にある。
「これ、なんていうんでしたっけ」
「Amphitheater じゃないの」
「そうそう。あれっ、ソクラテスが市場の人たちと話したりしてたのはなんでしたっけ」
「フォーラム?」
「違う。それじゃないやつ。なんだっけなあ」
「う~ん、アグ、アゴ、agora ?」
「おお、そうだ。あごーら。 Forum とはまた違うよね?」
「わからない。フォーラムはアンフィシサターのギリシャ語名?っていうかギリシャ語?」
「う~ん、どうでしょう」
という具合に、お互いで話し合っていても絶対に結論が出ない会話をしながら館内へ。中途半端な知識を持っているとこうなってしまう大学院生。
「動物の部屋」、「怪物の部屋」、「英雄の部屋」等と名付けられた展示室を回る。
私が個人的に当たりだ!と思ったのは、やはり動物をモチーフとした、なんとなく不気味だったりマヌケだったりする展示品の数々。
馬の頭の形をした鍵とか、銀細工の笑う鹿、妙に足が哺乳類くさいトキの置物、ヤギと男が座っている立体感のある壺など。
教科書などによく出てくる、日常生活や戦場の一場面などを描いたオレンジと黒の壺のことを krater という。ぶどう酒と水を入れる。
「どうして水で割ってしまうんでしょう。もったいないですよ」
「人数が多いと水で割って量を増やしてたんじゃないですか」
食事会や葬式や様々な祭式に登場するほか、「クレーターは、シンポジウム(symposia 、male drinking party)に用いられる」という説明を読んだ。シンポジウムとは学会などでよく使われる言葉だが、本来は男が集まって飲んだくれるパーティーのことだったのか。面白いことを学んだ。しかし驚いたのは krater のサイズだ。私の肩まで来る大きさの物も。古代ギリシア人の飲みっぷりに祝杯を挙げたい。
邸内の庭を探検する。午後の光が彫刻に差し掛かると、本当にローマのヴィラに遊びに来たようだ。
庭内の噴水で、ぶどう酒用の皮袋にロデオのように跨ったシーレーノスに遭遇。
シーレーノスは、ギリシャ神話のぶどう酒と演劇の神であるディオニューソス(ローマ名バッカス)の従者の一人で、大概このようにとても楽しそうにしている(酔っぱらっている)ぶよぶよ太った男だ。ぶどう酒の神がいること自体が凄いよ、古代ギリシャ。
パーティーにシーレーノスを招いたら一気に盛り上がりそう。
一方、歴史のミューズ、クリオは至って真剣。研究発表に招いたらインテリジェントなコメントがもらえそう。
「触って学ぼう」というサインと共に、野外に展示された彫刻。皮肉にも恥ずかしそうに体を隠すのは愛とエロスの神、アフロディーテである。
「全然隠しきれてないですね」とヘブンフィールドさんが大真面目に言いながら、アフロディーテの白く滑らかな腕をちょいちょいと突いている。厭らしさを感じてしまうのは私だけだろうかと己の美的感覚のさもしさを恥ずかしく思っていたら、後ろの人が「うふふ、なんだかヤラシイわね」と言ってるのを聞いて、あまり恥ずかしくなくなった。それにしても、人に撫でられまくって、どんどん小さくなってしまうのではないか実に心配である。
首からかける香水瓶や金細工の簪など、様々な装飾品と工芸品の見事な細工にうっとりする。遥か遠い昔のように感じられるが、かなり高度な技術があったことが受け取れる。
しかし一番魅力的なのはやはり上のようなちょっとマヌケな物。このビーズを作ったギリシア人のガラス職人は、どんな生活をしていたのだろうか。あの首飾りをしたエトルリア人は、どんな人だったのだろうか。そんなことを想像しながら、一つずつじっくり見ていく。
ミュージアムショップで見つけた素敵な本。美術館とは全く関係ない本だけれど、表紙の
マンボーに着目。地図好きのヘブンフィールドさんと長い間ぱらぱら捲っていたら、日が暮れてきたのでそろそろ引き返すことにする。今度、地図の絵本をサンフランシスコの書店で探してみようと思う。
Or me.