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アメリカ料理

フランス料理、トルコ料理、インド料理などがあるが、「アメリカ料理」とは何だろう。

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先週は見舞い客を受け入れることさえできず、ベッドで唸りながら過ごした。ベッドで一日を過ごすこと、これは大変な贅沢でもある。人は人生の三分の一をこの空間で過ごすと言うが、私は半分を過ごしたいくらいだ。仕事と関係ないペーパーバック、読む暇がないのに律儀に届いていた文芸誌、これらで枕の隣に山を築き、読書に耽る。誰も一緒に観てくれないヘンテコなフランス映画も一人で堪能。学部に顔を出さなくても、ちっとも不思議に思われない。うたた寝。ここで私はプルーンとウェーハーの朝食を取る。ここで、手術後の健康管理に気を配ってくれている彼氏が、バランスの取れた手料理を毎日ご馳走してくれる。バラエティに富んだ献立で、それ以上に健康的かつ美味な食事はない。手術、万歳!

しかし恋しいものがある。殊にお酒、コーヒー、しょっぱい物。いずれもあまり体に良くないものが恋しい。そして、「アメリカ料理」をなんとなく懐かしむ自分がいた。

相変わらず枕が長くなってしまったが、一昨日、助奈探くんとオフィリアちゃんがトレーダージョーズの袋を沢山さげて私の家に現れたときのことである。二人は私のキッチンを「乗っ取り」、料理をしてくれるというサプライズを企画してくれた。(助奈探とオフィリアとは学校でオフィススペースを共有しており、ブログをしばらく読んでくださっている方には馴染みある登場人物。バレンタインデーのことをさっぱり忘れていた夢見がちな助奈探くんなので、キッチン乗っ取り作戦を企画したのは、段取りが得意なオフィリアちゃんの方だと考えられる。)

さて、せっかくオフィスメートが訪問してくれたので、ワインボトルを開けた。二週間ぶりにワインを啜ると、すぐに懐かしい温かさが頬に宿った。酒を断っていたことを話すと、他にどんなことに気を使っていたのと訊かれる。そうね、しばらくアメリカンな感じの食事をしてないかなあと何気なく言うと(ミルクシェイクは食事と言えないからね)、「アメリカ料理とはどんなものだ」という議論になった。

理論は後回しで、例を考えてみる。まず頭に浮かぶのはハンバーガーやホットドッグである。

「でもドイツに由来するから、アメリカ料理じゃないんじゃないの」とオフィリアちゃん。

「そんなこと言ったら何もアメリカ料理とは言えないじゃないか」と助奈探くんが嘆く。「ピザはイタリアだし、ステーキもアメリカ特有のものじゃないし」

「ベーグルなんかはどうだろう?」と提案してみる。

「それも東ヨーロッパのものでしょ」

「でもニューヨークには独特なベーグル文化があるよ」

「うーん。仮にアメリカ料理だとしても、なんとなくつまらないね。もっと華やかな料理はないのかな」

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レッドウッドシティの Vesta で食べた、アメリカナイズされきっていない、薄くてパリッとしたピザ。フォークとナイフを使おう。

華やかじゃないと言われてしまった、可哀想なベーグル。ホットドッグに関しては十分アメリカナイズされているように思える。しかしこちらの中華も随分アメリカナイズされているものがあり、かといってアメリカ料理かと訊かれたら、答えは直感的にノーである。

もう少し曖昧な例だと、ブリート。私はサンフランシスコで数多くの美味しいブリートを「メキシコ料理」だと思い込んで、はぐはぐ食べてきたが、実際は、国境沿いの町を除きメキシコに存在しないらしい。つまり、ブリートはアメリカがメキシコ食文化からヒントを得て創り出した新しい料理なのだ。それでもタコスと同じ「メキシコ料理」とされがちだ。アメリカンになるには、どこまでアメリカ化されないといけないのだろうか?

そこでオフィリアちゃんはナンデモアリフォルニア流マックアンドチーズを作ってくれた。彼女自身が適当に考えたレシピである。

「マックアンドチーズこそ、アメリカ料理の鑑じゃないかしら!」

オフィリアちゃん曰く「カリフォルニア食文化と中西部食文化の絶妙なハーモニー」が楽しめる彼女のマックアンドチーズは、不健康なようで意外とバランスが取れているとのこと。そう話しながらポテトチップスをわんさか入れている様子である。最近のヘルシーリビングで完璧な調和を得た私の身体は、オフィリアちゃんの罪深きマックアンドチーズに侵されようとしている。

私はマックアンドチーズを作ったことがないことを変な自慢にしていたが(もう一つの変な自慢は電子レンジを持ったことがないこと)、これを機会に作り方を習うことにした。マカロニとチーズさえあれば、シチューとか焼きそばの感覚で、冷蔵庫に残っているものを適当にぽんぽん放り込むだけで美味しくできるらしい。

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オフィリアの適当なナンデモアリフォルニア流マックアンドチーズ。

オフィリアちゃんの「ナンデモアリフォルニア流マックアンドチーズ」は、ナンデモアリフォルニア人が好む、新鮮でビタミン一杯のケールを大量に使う。また、ベーコンではなくプロシュート、普通のコーシャーソルトではなくシーソルト、ブラウンシュガー(もちろんオーガニック!)、バルサミコ、イチジク、「職人のこだわりが光る」「アーティザナル」なグーダチーズなどなど、ちょっぴり贅沢な材料をそれとなく使用するのが、北ナンデモアリフォルニアっぽいのだと思う。

ここで余談。このようなちょっぴり贅沢な食材、特に野菜や果物類がほぼ年中楽しめるナンデモアリフォルニアのことを、羨むのと同時になんとなく不快に感じる気難しいニューヨーカーたち。カリフォルニアを羨ましく思ってしまうのが後ろめたい、そんな東海岸の人間の心境と、レシピ本に出てきてはどこにも売ってなくて腹立たしい思いをさせる、幻のカリフォルニア産「マイヤーレモン」が実はバークレーに腐るほどあるのを発見する経験など、ニューヨークタイムズ紙の料理コラムニスト、マーク・ビットマンが面白おかしく語っている(Mark Bittman, "Spring's Opening Act. Mark Bittman Revels in California Produce," The New York Times, 17 Mar 2015) 。ナンデモアリフォルニアに住んでて本当に恵まれているなあ。現に私の冷蔵庫にも、忘れられて萎み始めたマイヤーレモンがちょこんと座っている。余談おわり。

オフィリアちゃんは私の調味料を物色し、セロリーソルトやスモークパプリカなども即興で投入。そしてもちろん、マックアンドチーズの「中西部の精神」を忘れてはならない。最後に砕いたポテトチップスが入る。クランチーな食感が楽しめる利得も。

オーブンに10分ほど放り込んで、完成。茄子とトマトとオリーブのタペナードを添えて、ワインと一緒に。

お洒落なんだか、庶民的なんだか、色んな食材がごちゃ混ぜになっているオフィリアちゃんのマックアンドチーズこそ、「アメリカ料理」の精神を的確に捉えているような気が私はした。


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「オフィリアの適当なナンデモアリフォルニア流マックアンドチーズ」

オリーブオイル
ニンニク、シャロット 1~2個ずつ
玉ねぎ 1個
マカロニ 一箱
ケール 
プロシュート
チーズ コップ2杯
ポテトチップス
干しイチジク

A
バルサミコ酢 
シーソルト 
ブラックペッパー
黒砂糖 
セロリーソルト 小さじ1
スモークパプリカ 小さじ1

B
牛乳、またはヘビークリーム 適量
すりおろしたチーズ 適量
バター 大さじ3
小麦粉

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オーブンに入る前。適当なごちゃごちゃ感がポイント。

  1. フライパンにオリーブオイルを敷き、ニンニク、シャロット、みじん切りにした玉ねぎを炒める。(A)の材料で、味見をしながら適当に味付け。プロシュートは塩辛いので、バランスを取るためにほんのり甘くしたい。
  2. 半茹でしたマカロニを加え、お好みで生のケール、小さく切ったプロシュート(ベーコンでも良い)、角切りにした干しイチジクを入れる。
  3. 弱火に(B)の材料をかけ、簡単なソースを作る。ここは「適当」に限るが、バターとチーズが焦げないように注意し、小麦粉で微調整しながらとろっとさせる。チーズが多いほどネチッとした感じのマックアンドチーズになる。
  4. ソースをマカロニに加え、いよいよオーブンで焼く。ここもやはり適当に、375度(約190℃)で、様子を見ながら10分前後焼く。5分経過したところで、すりおろしたグーダチーズと、砕いたポテトチップスを上にまんべんなくかける。スライスした干しイチジクをぽこぽこ乗せても良い。出来上がったら、お好みで新鮮なブラックペッパーを振りかける。
  5. 素敵な友人と食べる。


by majani | 2015-03-22 12:52 | 食べる人々

カリフォルニア、ニューヨークを経て、ボストンにやってきた学者のブログ。海外生活、旅行、日常の記録。たまに哲学や語学に関するエッセイもどきも。


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