ベーグルの街

先日、私は街角のデリで呪文のような言葉を口にしていた。

キャナイゲッタンエブリーシングベーグルウィズロックスアンダビアーリーウィズベジークリームチーズ

少し前に、引越しを控えていると話しました。デスバレーセコイア国立公園をまわるロードトリップを楽しんだ後、ナンデモアリフォルニアとしばしのお別れをすることになったのです。

引越し先は、

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ニューヨーク。写真に写っているのはハドソン川から見たニュージャージー州ですが…。

今日は久々に戻って来たマンハッタンについて。

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American Museum of Natural History の正面。

ニューヨークに辿り着いたのは9月の頭だったが、まだ30度以上あるいわゆるインディアン・サマーだった。

そして、夏のマンハッタンは、とにかく臭い。いきなり悪臭の話をするのもなんだが、私はカリフォルニアで博士課程を始める前、マンハッタンのアルファベットシティに住んでいて、ニューヨーク時代の記憶の多くは、何等かの香りがキッカケにある。

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セントラルパークにて。

夏のマンハッタン。地下鉄の階段を下り始めると、ねっとりした空気がまず顔面を直撃し、それを追いたてるようにゴミと排泄物の悪臭が鼻を攻撃してくる。洒落たオープンエアカフェが、ゴミ袋で築かれた黒い山と同じ道端で共存しているのが、夏のマンハッタンの街頭… そんな酷いイメージが私の中で根強い。ニューヨークから初めてベイエリアに移った時は、サンフランシスコはなんて清潔な街なんでしょう!とよく口にしていた。

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ファーマーズマーケットにて。

それでも、ダーティーでグライミーなニューヨークが、私は大好き。

私の学生時代のアルファベットシティは、プエルトリコ人が沢山住んでいて(さらに昔はプエルトリコ人とユダヤ人のエリアだったと聞く)、夕方になるとライスとビーンズの優しい香りが、スタジオアパートにふわりと流れ込んできたものだ。近所のおじさんたちが道端でラテン音楽をラジオで流していたり、私の建物の裏のコミュニティガーデンでちょっとしたバーベキューが行われたりしていた。ごちゃごちゃした、活気溢れるエリアだった。

今思えば、ベッドとテーブルがやっと入るほどの小さな空間でよく生活していた。若くて初心だった私は、大家さんに家賃を現金で払うように言われてもそれをちっともオカシイと思わず、毎月、大家さんの謎めいた指示通りに1番街2丁目にあるコインランドリーへてくてく歩いていき、奥に座っている英語を一言も喋らないユダヤ人のお婆さんに現金を手渡していた。大家さんとコインランドリーのお婆さんの関係は、最後の最後までよく分からなかった。今となっては、闇の中。

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冒頭のデリの話に戻すと、二度目のニューヨーク生活の初日、お腹を空かせた私は近所で発見したコーシャーデリに吸い込まれるように入っていった。ニューヨークの朝ごはんの定番、美味しいベーグルをまず食べたいと思った。空気中の菌によって美味しいサワードーブレッドがサンフランシスコ辺りでしか味わえないのと似たように、一度茹らせてから焼くベーグルの場合は、地域の水が重要。あの濃厚な味とモチモチっとした密な食感は、東海岸でしか生まれないという。

デリに足を踏み入れたとたん、何年も使っていなかった言葉がふと戻って来た。私は everything bagel with lox and cream cheese と bialy with veggie cream cheese の二つを頼んだ。見事にデリでしか役立たない言葉ばかり!

ロックスはサーモンのすり身のことで、「全部ベーグル」はプレーンベーグルの正反対で、ポピーシードやゴマなど普段ベーグルに使われるトッピングの全てが外側にくっついているもの。ビアーリーはベーグルと同様、東欧のユダヤ系コミュニティが発祥地のパンの一種だ。また、クニッシュ(knish)という、中にジャガイモがぎっしり詰まったペーストリー(これもユダヤ系のおやつで美味)や、イスラエル風のトマトと胡瓜のサラダなどの惣菜が売られているのを見て、激しく懐かしんでしまった。

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もう一つ懐かしく思ったのは、デリに来ている客層。もちろん、初めて見る人たちばかりだったが、少し大袈裟に言うと、20代後半~30代の白人テック企業関係の人間ばかりが住むサンフランシスコから移ってくると、デリに来ている人たちの多様性が変に新鮮だった。

中年の野球帽の黒人男性、大学のフラタニティにいそうなやんちゃな白人若人グループ、近くに住む金持ち金髪パパとそっくりな金髪赤ちゃん、巨大なフープピアスのヒスパニック女性、中年アジア人カップル、そしてベーグルの注文が飛び交う大変な騒がしさの中で、一向に動じず新聞紙に読み耽るヤムルカを被った老人たち。彼らは、夏なのに毛糸のチョッキを着ていて、足元は靴下&ゴム草履だったりする。この絵に描いたような、人種、文化、世代が交差する狭苦しいデリの中で、「ああ、ニューヨークに戻って来たんだな」と私は思わずにいられなかった。

ノスタルジックになっていると、「ちょっと、早くしてよ」と列の後ろの人に急かされたのも、ニューヨークらしくて再度じ~ん!としてしまうあり様。

私はベーグルとコーヒーをホテルで休んでいるリルケに持ち帰った。カリフォルニア育ちのリルケは、不愛想なニューヨーカーに早くも幻滅しているようだったが、初めて食べたロックスとクリームチーズのベーグルがすっかり気に入ってしまい、翌日も、翌々日も、そのデリに通い続けることになる。

ベーグルの力は、凄い。

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ニュージャージー州側から見たマンハッタンのアップタウン。

さて、ニューヨークに引っ越したので新しいブログを始めようかとも思いましたが、面倒くさがり屋なので 学会等でベイエリアに戻ることもありますし、せっかくここで素敵なブロガーの方々と繋がることができたので、このまま『ラマがいない生活』で続けようと思います。

ブログを始めた当時、「ラマ」は、何か探し求めていた物が、実際に行ってみたら無かった… という比喩のつもりでしたが、カリフォルニアに住んでいる間、「ラマ」の代わりに新しい発見が色々ありました。大学院初期は、カリフォルニアは「自然が多すぎる、つまらない」とぼやいていたのが(ホント、昔の自分を引っ叩きたい)すっかり西海岸とその人々のレイドバックな接し方の虜になって、東海岸に舞い戻ってきました。また、ニューヨークの思い出と実状が噛み合わないことから逆カルチャーショックみたいなものも大きく、「ラマがいない」という前提は、今年こそタイムリーなのかもしれない。

ボストンで新たな仕事を控えているので、ニューヨークの滞在期間は一年と短いですが、この大都市でも面白い発見ができればと思います。とりあえず遊び過ぎないように心掛けよう、っと。

サワードーの街から、ベーグルの街にやってきましたが、これからもお付き合いいただければ嬉しいです。



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by majani | 2017-10-14 02:55 | 食べる人々 | Trackback | Comments(7)
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Commented by lanova at 2017-10-14 03:20
新(再)天地はニューヨークだったのですね!
アメリカにいる間に一度は行きたかったニューヨーク。
夫の大反対にあい、とうとう行けずじまいになりそうです。
majaniさんのニューヨーク探訪記、これから楽しみにしています。
1年間限定ってのがこれまたいいね!
私は来月15日、アメリカの冷蔵庫から脱出です。
そしてアメリカのホームタウンLAにちょこっとの間、滞在予定です。
Commented by meek6768 at 2017-10-14 12:39
おぉーMajaniさん、西から東なんですね!! 私は都会が超苦手なので(シカゴ?)たぶん、ニルケさん寄りです(笑) 
Majaniさんの視点からのNY一年限定生活、とても楽しみにしています!!
Commented by majani at 2017-10-15 01:39
lanovaさま
あらら、ご主人はニューヨークが苦手ですか。
確かにロサンゼルスとは別の国かと思うほど全く違う雰囲気の街ですよね。
Novaさんも、大移動が来月に迫っているのですね。
ロスでヤシの木と太陽をいっぱい楽しんでくださいませ!
羨ましや!
Commented by majani at 2017-10-15 01:41
meekさま
かなり西に移動して Meekさんからさらに離れてしまいました(^-^;
シカゴは風が冷たそう!
主人ですが、早く「住めば都」になってほしいのですけどね。
セントラルパークでリスを見つけては「ほらほら、リスだよ、自然だよ~」と騙しだましで来てます。
一年限定生活、遊び呆けてしまわないように頑張りますー
Commented by majani at 2017-10-17 01:05
meekさま 追伸。
↑西に移動じゃないですね、東です(*_*;
Commented by BBpinevalley at 2017-10-21 07:02
こんにちは〜
デリで急いで唱える呪文=美味しい結果…いかにもNYですね。
あのニューヨーカーのbluntさ、最初は鼻についても、慣れればこちらも返せて爽快かも。
摩擦が多そうな社会に見えても、実はとてもtolerantなのが、ニューヨークシティというところの特徴ですよね。
でないと、あれだけの人種と社会層が、一緒にひしめき合って暮らしていけない。
これからの1年、楽しんでください。
時々のレポート、楽しみにしています。
(そして、トランプ、なんとか元のタワーに閉じ込めてください、NY市の責任として)
Commented by majani at 2017-10-23 02:42
BBpinevalleyさま、こんにちはー
擦れたニューヨーカー達は blunt だけど tolerant、まさしくそうですね。
ニューヨークは誰もが「違う所」から来ているからこそ、
「私は興味ないけど、あんたは好きにやってくれ」と
変に寛容なエートスがあります。

あのタワー… トランプ封印大作戦を練りに、一度行っておくべきか。
メラニアはあそこに一人で(+息子)せいせいしているのでしょうね。
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カリフォルニアで博士号取得後、ニューヨークにやってきた学者のブログ。海外生活、旅行、お出かけの記録。たまに哲学や語学に関するエッセイもどきも。


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