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未来は女だ

土曜日、女友達3人と一緒にニューヨークの Women's March に参加した。今回は珍しくシリアスな話ですよ。

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乱雑無章のトランプ政権も、いよいよ二年目に突入。去年1月のトランプ氏の就任に伴い、米国各地を始めロンドンやパリなど海外の都市でも同時に行われたウィメンズ・マーチが、今年も決行された。

去年は人種、階級、年齢の壁を越え大勢の女性(男性も)がワシントンDC、サンフランシスコ、ニューヨークに集まり、女性の権利を訴えると共に、トランプ自身の女性を見下す数々の言動に対し抗議した。色々あった一年で大昔のようが気がするが、クリントンが最後の最後のどんでん返しで負けたこともあり、去年のデモ行進は非常に感情的で、又、多くの参加者が被っていたピンク色の毛糸で編んだ猫耳の「プッシー・ハット」が話題を呼んだ。

先週末のウィメンズ・マーチは、2017年の秋に発足した #MeToo 運動が背景にある。次々と著名なハリウッド・テレビ俳優、コメディアン、政治家、ニュースアンカー等が、セクハラや性的暴力を行ったと世論の法廷で裁かれたのだった。

このドミノ現象のスピードは凄いものだった。普段から目まぐるしい米国のメディアサイクルで、様々な権力者が次々と辞任したりクビになったりする模様を追うだけで精一杯だったのを覚えている。ほぼ同時期に、フランスでは、#BalanceTonPorc (直訳すると「あなたのブタを暴け」)といい、アメリカと同様にソーシャルメディアを駆使した運動が軌道に乗った。#MeToo ムーブメントは他に、イギリス、カナダ、メキシコ、インド等に飛び火し、短期間で国際化。CBSニュースによると、10月末には85ヵ国で#MeToo のハッシュタグを使ったツイートが1000件以上記録された。

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そして数カ月経った今。最近、「少しやり過ぎではないか」「男性の言動全てが#MeTooの対象になってしまうのでは危険」「#MeTooによって、女性が行為者性に欠ける被害者視されるのでは良くない」などといった反論の声が、一部のアメリカの女性から上がっている。

やはりバックラッシュが来たか、とため息をつく女性も少なからぬことでしょう。一方のフランスでは、映画女優カトリーヌ・ドヌーヴを含むフランス人女性が執筆した、#BalanceTonPorc 運動を問題視する公開書簡が注目を浴び、その反動で公開書簡に対する抗議も殺到している。米仏の間で「バックラッシュ」の要因は異なるが、いずれにしても女性の間の議論が今しばらく両国で続きそうだ。女性の権利の推進、そしてセクハラや性犯罪に対する文化規範をこれからどうやって考えていくか、どのような方針や戦略を選ぶべきなのか。結論はまだ見えてこないが、初期の熱狂がすこし冷めたところで、アメリカにおける議論は次の段階へと着実に進んでいるように思える。

ところで、前からぼんやりと不思議に思っていたことだが、何故 #MeTooは日本にそもそも定着しなかったのだろう。この騒ぎが起こる前のウィメンズ・マーチの時もそうだったし、日本社会は「流行」に弱い割に、社会運動的なことになると、抗体でもあるかのようにイマイチ盛り上がりに欠ける。

CNNによるツイッターデータの統計によると、去年11月時点で日本から発信された#MeTooのツイート数は、米国(52万件)、インド(2万4千)、英国(7万4千)、フランス(1万5千)、ドイツ(1万3千)、スペイン(7千4百)を大きく下回る4742件。パキスタン(3997件)とコロンビア(5217件)の間に位置する。主流メディアで#MeToo があまり報道されていなかったという原因もあるだろうが、もう少し反響があっても良かったのでは、と感じている。

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少し話がずれてくるが、日本では、電車や地下鉄の痴漢問題にしても、声を上げて回りの助けを借りて悪い奴をどんどん裁く、ではなく、女性専用車両を設けるという、女性が痴漢者に機会を与えないよう、悪く言えば「逃げ道」の方針を取ったわけである。まあ、私も使ってますけどね、どうして何も悪くない女の方が、混みあっている女性専用車両にぎゅうぎゅう詰めにされなければならないのか、とプンプンしてしまうのですよ。

そういえば、昔、出勤中にニューヨークのグランドセントラル駅で痴漢にあったことがある。男が逃げ出したので、近くでだべっていた警官たちに知らせると、彼らは食べていたドーナツを置き、「なんだって?奴はどこだ」と訊いた。人混みの中に消えていく男を指さして「あの人です」と言うと、「よおし、お嬢ちゃん!ついてきな!」と警官は急に走り出した。訳が分からず、私も高いヒールをカツカツ鳴らせて必死に後を追った。警官の一人が「今、痴漢野郎を追跡中」とラジオで応援を頼むと、わらわらと駅中から警官が出てきて、最終的にはマラソンのような大人数のグループで追跡。ついに街頭で男は取り押さえられた。

警察官のドーナツから、グランドセントラルを駆け巡る大騒動、「お前を逮捕する」というセリフまでの全てが映画のようで、私はポカ~ンとしてしまった。警察署で被害届の手続きをしていると、しかしどの警察官もとても親切に、「嫌な目に遭ったね、本当に可哀想だったね」「僕たちに教えてくれてありがとう」「捕まえられたのも君のおかげだ」と声をかけてくる。

それに比べ、日本で自転車に乗った男に後ろから抱きつかれた時は、交番に駆け込むと「お姉ちゃん、なんで痴漢を追わなかったの。やっつけちゃえば良かったのに!」と冗談を言われ、ムッとしたのを覚えている。痴漢に遭った瞬間に私がケータイをいじりながら歩いていたことが浮上すると、今度は「ああ、ケータイ見てると狙われちゃうんだよね~」と解説される。痴漢のショック以上に、交番の警官たちに対するガッカリの方が私の中で大きかった。(唯一同情してくれたのは、警察署で言葉を交わした女性警部。)まるで私に責任があるかのように話す態度に腹を立て、また絶対に捕まらないのだろうな、とすっかり悲しい気持ちになり帰宅したのだった。

このようなことが何度か続けば、#MeTooで声を上げるどころか、その場で警察に行こう、周りの人に助けを求めよう、という気が起こらなくなってしまうのは無理がない。遠くに住んでいる者の憶測に過ぎないが、逆に自分が非難されるかも…とためらってしまうのが、日本で#MeTooがイマイチ根付かなかった要因の一つとしてあるのでは。

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因みに私は、#MeTooが「少しやり過ぎだ」などとちっとも思わない。職場でよくあるさりげないセクハラ発言であれ、レイプのレベルに達さない行為だとしても、それは悪いことであるのに違いはない。そういった体験を#MeTooで声にし、他人の体験について読むことによって、「嫌なことが起きたのは自分の責任ではない」「そうか、自分と同じような嫌な体験をした人が他にいるんだ」と確認できること自体に十分意義があると、今のところ考えている。そもそも運動は「きっかけ」を作ることが主旨なのだから、それ以上の社会変動や政治的・法的な改革は、#MeTooやウィメンズ・マーチそのものに望んでいない。持続的な変化は、やはり投票ブースの中で起きると信じている。

さて、ウィメンズ・マーチの話に戻すと、今年は色々とひっかかることもあった。

デモ参加者はほとんどが白人女性、それも裕福な女性、のように感じた(男性もかなり混じっていたが、白人ばかり)。裕福な白人女性にだってもちろん、マーチする権利がある。しかしこの国で最も抑制されているデモグラフィックは、マーチが行われるような街に住んでいないのではないだろうか、土曜日を一日潰す余裕がないような経済状況にあるのではないだろうか、と思わずにはいられなかった。マーチに向かう地下鉄の中は、グリッターやシールで飾り付けたデモ行進用の看板を持った人で混雑していたが、途中で乗ってきたホームレスの女性や黒人男性にはびた一文あげない。それもなんだかなあと、複雑な気持ちになった。

また、参加者のプラカードを見ていると、「反トランプ」が包括的なテーマとしてあるものの、#MeToo関連のものや、DACAと移民問題、政府のシャットダウンなど、リアルタイムで起きていることに抗議するものが目立つ。去年に比べ、ウィメンズ・マーチのメッセージに統一性がない。

友人たちも「各自の理由で参加するのもアリだと思うけれど、自分自身が何のために行進しているのか、だんだん分からなくなってくるね」とモヤモヤした気持ちを訴える。そもそも友人ルポは「行進しても何も変わらない」と言っていて、いやいや私たちに付き合ってくれたのだった。来年もマーチはあるのかな、感謝祭とかベテランズデーみたいに恒例のものになるのかねえ、と話し合いながら、20ブロック歩いた辺りで行進から抜けた。

その日、友人のフリーダは、The Future is Female と大文字で書かれたセーターを着ていた。「未来は、女だ。」今現在は、それはまだとても曖昧な未来。




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by majani | 2018-01-23 07:18 | 言葉と物

カリフォルニア、ニューヨークを経て、ボストンにやってきた学者のブログ。海外生活、旅行、日常の記録。たまに哲学や語学に関するエッセイもどきも。


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