トロッコ問題!

隣の部屋のスナフキンの咳で起こされる。その後寝付けず、いやいや5時半起床。

朝ごはん。紅茶、トレーダー・ジョーズのイングリッシュブレックファスト(二杯)。いつだったかオフィス仲間がくれたのを鞄に入れたことをしばらく忘れ、ある日ぽろっとまた出てきたギラルデリのチョコレート(ひとかけら)。

早く起きれば起きるほど、朝の時間が短い。早起きしたのに、もう9時になっているとはどういったことか。10時くらいにキャンパスに着き、カフェで大きなラテを買う。雨が降っているので、仙人草が茂っている影のところにしゃがんで煙草を吸う。

ラテの最後を飲みながら、アマゾンで本を購入。ハンナ・アーレントの『全体主義の起源』、マフムード・マムダニの Define and Rule : Native as Political Identity など。(そのまま訳すと、『定義統治~政治的独自性としての「ネイティブ」』。「分割統治 (divide and rule)」にかけているのでしょうね。まだ読んでいないけど、面白そう。)

午前中は、今学期 TA(teaching assistant の略で、授業助手)を務めているクラスの講義がある。現代の道徳問題、という崇高な名前のついたクラスだ。趣旨としては、現代社会における色々な問題を考察するのではなく、道徳哲学者が如何にして規範的議論を組み立てているか、その組み立て方は効果的であるかなど、要は哲学者の「道具」の使い方や見分け方、殊に道徳哲学者が用いる手法を学ぶクラスである。道徳問題の内容は、中絶だったり、菜食主義だったり、いろいろある。

なお、この哲学者ツールキット(売っているものなら、是非購入したい)の中に思考実験というのがある。今日は学期初めの講義だから、生徒にもっと興味を持ってもらおうということで、哲学者ってこんなに面白いこと考えてるんだよ、乞うご期待!というメッセージを込めて、面白い思考実験を生徒たちと実行する。もっとも、興味津々な生徒しか来ていないのだが、なかには哲学を「する」というのがどういうことなのかイマイチ分からない、もしくはあまり考えたことがなかった生徒や、哲学イコール「強い意見を持つ」と思い込んでいる生徒もいる。後でがっかりされるとこちらも困るので、こういう勘違いは今のうちに正しておく。

というわけで生徒に出題したのが、とても有名な「トローリー問題」。「トロッコ問題」とも言う。(日本語だと後者の方が語感が良い。トロッコ問題!という具合にびっくりマークを付け足したくなるような、なんだか景気良い感じがするので、「トロッコ問題」で統一することにする。)この思考実験は誰が最初に思いついただの、その後誰が適応しただの、細かい話は省くことにする。いろんなバリエーションがあるが、要は次のような設定だ。

線路の上に5人の人間が立っている。(線路の上で何をしているのか、何故そこにいるのか、詳細は別にどうでもいい。)そこに、なんらかの理由で制御不能になったトロッコが猛スピードで向かっていて、トロッコがそのまま走り続ければ、線路の5人は轢かれて確実に死んでしまう。ここまでが前提。

さて、あなたはちょうど線路の脇に立っていて、そこの分岐器のレバーをちょいと引けばトロッコの進路を切り替えることができる。ところが、その側線上にも誰か一人立っていて、進路を切り替えればこの人はトロッコに轢かれて確実に死んでしまう。

さあ、あなたはどうする?レバーを引くべきか?

これがトロッコ問題である。実際にどうするかという問題より、レバーを引くか引かないか、どちらが道徳的に正しい行動か考える。言うまでも無くこれは法律問題でない。あくまでも道徳に関する思考実験だ。

答えを心の中で決めたら、次の設定。

また5人、線路上にいるが、この設定では線路は一本。その上に橋が掛かっていて、あなたは橋の上から止まらなくなってしまったトロッコに気がつく。このままだと、線路上の5人は轢かれて確実に死んでしまう。さて、あなたの隣にはもう一人誰か立っていて、この人はとても太っている。(これはジューディス・ジャービス・トンプソンが提案したトロッコ問題の「太った男」バリエーション。太った男ではなくて背が高い女とかでもいいが、とにかく体が大きい赤の他人で、また、線路上の5人と同様、橋の上で何をしているのかはどうでもいいのだが、トロッコに気づいていない様子だ。線路の脇に落ちている100円を発見し、100円ならあれこれ買えるけど橋を降りるのは面倒くさい、せめて500円玉だったらなあ、なんて100円玉を拾いに行くべきか検討している、とでもしよう。)

そこであなたは考える。この太った人の背中をそっと、ほんの少しだけ押せば、彼はトロッコの前に落下し、その大きな図体でトロッコを止めることができる。少し先にいる5人は確実に助かるが、落下した太った人は確実に死ぬ。(因みにあなた自身は体が小さすぎるので、自分が橋から身を投げてもトロッコは止まらない。)

さあ、隣に立っている見知らぬ人をトロッコの前に突き落とすべき?

最初の設定では、より多くの人の命を救うためにレバーを引くべきだと回答する人が、一般的にけっこういる。ところが、橋のケースでは、5対1という計算は同じなのに、5人を救うためでも太った人を突き落とさないと答える人が断然に多い。(迷い無く突き落とす!と即答する人もいるが、それは少数派。橋の上でとどまって景色を眺めたりするのが好きな人にとってはグッドニュース。)とすると、最初のケースと橋のケースで何かが異なっていると直感的に感じているわけだ。

じゃあ、どこが異なるのか。教授が生徒たちに問いかけると、もしかしたら「背中をそっと押して突き落とす」というその接触自体が悪いのかもしれないと一人が言う。じゃあ、突き落とすのではなくて、橋の上にもレバーがあることにし、そのレバーを引くと、ちょうど太った人が立っているところの底がスポッと抜けて自動的に橋から落ちるという仕掛けになっている。そのように置き換えたら、橋のケースでもレバーを引くべき?発言した生徒は頭を傾げ、しばらく考えた末、いや、それでもなんとなく間違っている、と言う。ではこの「なんとなく」というのは何だろう。背中を押すという接触でないとしたら(もちろん、この接触を問題視する人もいるが)太った男を落とす行動のいったい何が非道徳的なのか?最初のケースと異なることを他に探してみよう。

こういう具合にディスカッションが進んでいく。最終的には、どう考えても太った男を突き落とすのは非道徳的だから、もしかしたら最初のケースでもレバーを引いちゃいけないのかも…と考え直す、すなわち自分の直感を疑い始める生徒も。

途中で、倫理的利己主義についてちょっと面白い余談があるんですよ、なんて教授が言っているあたりで、唐突な会話難易度アップに動揺する生徒たち。大丈夫、私のセクションはとても易しいよ。頑張れ、若き哲学者たち。

昼ごはん、ナシ。
晩ごはん。キノコとソーセージのピザ(2スライス)とトマトサラダ。先日友人が持ってきてくれた、ラベルにしまうまの絵が描いてある赤ワイン(3杯)。

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# by majani | 2014-03-31 12:25 | 院生リンボー | Trackback | Comments(0)

なんでもありふぉるにあ

ここしばらく、「ざ・ふぁーむ」というあだ名がついているカリフォルニアの某大学院で奮闘生活を続けている。ここに来るまでは、カリフォルニアについて何も知らなかったし、興味もあまりわかず、ワインが美味しそうとか陽射しが強そうとか、カリフォルニアの住人は人がよさそうとか、漠然としたつまらないイメージしかなかった。引越しが決まりやきもきしている時期、ふぁーむと呼ばれているんだから、ひょっとしたらラマとか馬とか飼っている学校かもしれないと思った。ぜひともラマを触ってみたい。学業が辛いときに癒されたい。


着いてみると、ラマも馬もいなかった。実に嘆かわしいことである。サボテンがにょきにょき生えていることに感激するも、哺乳類といえば妙に大きいアライグマと巧妙なフットワークを見せびらかす嫌味なリスくらいしかいないではないか。全然ふぁーむっぽくない。いや、むしろラマよりアライグマがいたほうが農場っぽいのかもしれないが、都会育ちなのでそこらへんは怪しい。


よくよく考えてみれば、カリフォルニアにラマなんかいるのだろうか。今なおカリフォルニア州自体にあまり興味がないので調べていないが、とりあえず私の活動範囲内にいないことは確かだ。


こうして、ラマがいない生活が始まる。


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# by majani | 2014-03-30 19:10 | ナンデモアリ | Trackback | Comments(0)


ナンデモアリフォルニアの某大学院で研究中。海外生活、旅、散歩で出会った生き物などの記録です。たまに哲学や語学に関するエッセイもどきも。


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