ロブスター

ボストンに来てからロブスターを頻繁に食べている。

ぷりぷりのロブスターをふんだんに使った、バターの香りが立ち込める豪華なロブスターロール・・・を食べているわけではなく、オフィスの近くのカフェでどうでもいいサラダを頼んだら出てきた物にロブスターが少し入っていたとか、会食で出されたリゾットにロブスターが潜んでいたとか、その程度だ。ふと気付けば、ありとあらゆる場面でさり気なく登場していたのである。

この世で最も過大評価されているもの、それはシャンパン、ロブスター、アナルセックスにピクニック、とクリストファー・ヒッチンズが言ったのを思い出す。

ロブスターはどうも食べるのが面倒くさい。誰かに全てほじくり出して食べやすい状態にしておいてほしい。そしてレストランで食べるととても高い上、バターやらソースやら、余計な物にどっぷり浸かっていたりする。醤油をほんの少しだけタラリとかけて、日本酒と味わいたいと思ってしまうのは日本人の(お酒好きの)性だろうか。

いきなり理不尽な文句を並べてしまったが、一方のリルケはロブスターが大好物。いつも食べたい食べたいと言っている。そんなある日、ついに彼はロブスターを買ってきて家で料理することにした。

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ボストンでは新鮮なものが普通のスーパーで手に入る。こちらが、リルケが買ってきた1ポンド10ドルの巨大なロブスター。早速、ロブと名付けた。

さて、私たちは数時間の間、ロブスターのロブ君を冷蔵庫に放置していた。しかし何かを取り出すために冷蔵庫の扉を開ける度に、紙袋の中から ぷつぷつぷつ…ぷぷぷ… というロブの独り言が小さく聞こえてくる。これが不気味でしょうがなく、いつもより早い時間に夕食を繰り上げることにした。やはり名前を授けたのがダメだった。ロブが可哀想になってきてしまった。

「寒いよう、寒いよう、と言ってるんじゃないか」

「擬人化したらダメですよ。食べられなくなっちゃうでしょ」

リルケは軍手をはめながら、ロブスターを鷲掴みする角度を見極めている。

普段は何も感じることなくステーキやらチキンやらお肉を食べているのに、実際に自分で(というかリルケが)生きたロブスターを大きな鍋の中へ突っ込むとなると、俄然、湧き上がるこの後ろめたさは何だろう。以前『肉食の貴方へ』という記事でもこの「問題」に触れたが、扉を開けて、そこにつぶらな瞳のロブ君が座っていたら、私の気持ちは揺らぐだろうか。

小さい時、母と一緒に近所の店にアサリを買いに行っていたのを思い出した。水を張った器に移し、アサリがぴゅっぴゅっと飛ばす水鉄砲を、晩御飯の時間になるまでずっと眺めていた時もあった。いつもちょっぴり淋しい思いでアサリを食べていた、そんな記憶が朧気に残っている。

実際に「ロブスターできたよー」と声がかかると、冷蔵庫から聞こえる不気味な独り言も、器からアサリが消えていて悲しかったことも、すっかり忘れてルンルン食卓に向かっていた私。ロブスター、美味しかった。ヒッチンズ氏、あなたに一度ポン酢でロブスターを食べてみてほしかった、そしたらロブスターが過大評価されているなんて冗談でも言わなかったわ、というくらい美味しかった。

残りを野菜と煮てストックを作り、後日、リゾットやスープなどに使った。これがまた美味。困ったもんだ、全く。


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# by majani | 2018-11-17 05:41 | 食べる人々 | Trackback | Comments(8)

秋のボストン sanpo

ラフな出張から戻ってくると、街はすっかり秋色になっていた。メインやバーモントの紅葉は逃したかもしれないけれど、ボストンのは間に合ったようだ。疲れた目と心の保養に、ボストンコモンとパブリックガーデンへ、リルケと散歩に出かけた。

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まるで油絵に迷い込んだかのような鮮やかな紅葉、リズムに乗って足元から聞こえてくる木の葉の音。年中ヤシの木のナンデモアリフォルニアにはこれが無かった。冷たい空気も、心地良い。

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カナダガンも揃って池の中をお散歩中。

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合わせて74エーカーほどある Boston Common と Public Garden。ピカピカの高層ビルが聳える金融街やネオンライトの劇場街などがある都心ダウンタウンエリアで数少ない貴重なオープンスペースだ。規模では負けるけれども、マンハッタンでいうところのセントラルパークのような存在。

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何やら書き物をしたり、ガンをぼーっと眺めてたりしている人がぽつぽつと畔に並ぶ。なんだか私も、下手な詩が書きたくなってきた。

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大きな馬に跨った警察官に遭遇。これが本当に跨っているだけで、行き交う観光客にわあわあ写真を撮られている。馬はどのような思いに耽っているのだろうか。

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場所変わって、昨日はキャンパスから逃げ出し、ボストン Museum of Fine Arts (MFA)で先輩教授たちとランチを食べた。今はウィニー・ザ・プーの特別展示会が行われている。

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MFAが誇る開放的なアトリウムで、バルサミコとハチミツで味付けされた季節の野菜タルトを食べた。できることなら毎日ここで空を見上げながらランチを食べたい。

先輩たちは、アトリウムに2011年から飾られている Dale Chihuly のガラス作品、 Lime Green Icicle Tower の素晴らしさについて盛り上がっている。なるへそ、タルトに夢中になっていましたが、あの緑の物体は芸術品だったのですね。私には金魚の水槽によくある水草に見えます、とは恥ずかしくて言えず。

無料のガイド付きツアーがあるので、後日、一人でゆっくり美術館を回りたいと思う。



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# by majani | 2018-11-10 02:45 | 旅に待ったなし | Trackback | Comments(6)

ドーナツ頌歌

紅葉楽しみだねえとリルケとしばらく話していたのだが、気が付けばピークシーズンが既に終わっている。時間はどこへ・・・!

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それでも秋らしいことをしたいという願望があり、アップルサイダードーナツを見つけては買っている。店によって林檎の味の感じが違うので、色々試してみるのが些細な楽しみ。アップルサイダー自体がじゅうぶん美味しいのだから、そりゃドーナツにしたら美味しい。日本にいる時は、サンジェルマンなど普通のパン屋で売っている砂糖とシナモンのドーナツを食べる度に「毎日欲しい!」と激しく感激する。素朴な味だからこそ飽きが来ない。

ドーナツとは、誰が発明したのだろうか。真ん中が上手く揚がらないから穴を開けちゃえ、と考えた人、なんて頭が良いんだろう。サンドイッチ卿のように、ドーナツ卿が存在したとしたら、なんだか嬉しい。

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話が脱線し続けるが、先日、ウェリングトン(英国で長靴のこと)は初代ウェリントン公爵アーサー・ウェルズリーから来ている wellington だと、英国のテレビ番組で知った。ウェリントン公爵は頻繁に長靴を履いていたのだろうか。謎が深まる一方だが、いつかどこかで役立つトリビアかもしれない。

また、同じ番組で言っていたのは、サンドイッチ卿が「発明」したとされるサンドイッチは、実はもっと昔から存在したとか。ある学者が、サンドイッチ卿が登場する17世紀以前の書物に「パンとパンの間に肉を挟んで、それを食べた」という記録を見つけたらしい。その学者は、これはまさしくサンドイッチそのもの、大発見だーー!と大変エキサイティングな論文を発表した、と私は想像したい。これも、いつかどこかで役立つトリビアかもしれない。


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# by majani | 2018-10-28 01:09 | 食べる人々 | Trackback | Comments(6)


カリフォルニア、ニューヨークを経て、ボストンにやってきた学者のブログ。海外生活、旅行、日常の記録。たまに哲学や語学に関するエッセイもどきも。


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