2014年 05月 14日
ビール眼鏡
目覚めたら、世界がくっきり見えた。コンタクトレンズをはずし忘れて寝てしまったらしい。リビングルームは、財布やらペンやらバッグの中身の全てがカーペットの上に散らばっていて、蚤の市状態。髪はごわごわしているし、電話には不在着信通知とメールが溜まっている。どうやら、久しぶりに飲みすぎた。
これは土曜日の話。家が蚤の市状態になる前夜、サンノゼでチャヨーテを一緒に試してみたヘブンフィールドさんと、彼の高校時代の同級生とその友人と一緒に飲みに行った。タコスとかガーリックフレンチフライとか、アルコールを吸収してくれそうなものを食べていたつもりだったのに、ピルズナー、ヘーフェヴァイツェン、シュヴァルツビア等、色々なビールを楽しく飲んでいたらけっきょく酔ってしまったようだ。
スワヒリ語の授業でアルコールに関する慣習的な表現を習ったばかりなので、私の一週間のテーマは「酔っ払い」だった。
「クヴァー ミワーニ」(kuvaa miwani)は文字通り「眼鏡をかける」という意味だが、使い方によって「酔っ払っている」(kulewa)状態を示す。
英語にも「ビールの眼鏡」あるいは「ビールのゴーグルをかける」(wear beer goggles)という表現がある。スワヒリ語の「クヴァーミワーニ」と異なり、英語のビール眼鏡は飲んだことによって周りの人や物が実物よりも美しく、又は楽しく思えることを意味する。アーネスト・ヘミングウェイだって周りの人をもっと面白くするが故に飲むとか書いていなかったっけ。
例えば、バーで友達と飲んでいたとしよう。そこで女友達の一人がバーの向こうに座っている男性を指差して、「あの人カッコイイと思わない」と言うので、どれどれと早速チェックしてみるとそれがとてもさえない男だ。こんな時に、「全然格好良くないよ。ビール眼鏡のせいだよ」と言う。私はよくビール眼鏡をしているんじゃないかと指摘されるが、それは好みのタイプが違うだけだと信じている。
今、ビールを飲みながら仕事をしているが、仕事はちっとも美しくも楽しくもならない。サンフランシスコの地ビールメーカー、アンカー・ブルーイング・カンパニー (Anchor Brewing) のボックビールを飲んでいるのだが、どのブルーアリーでもボックビールは必ずといってよいほどラベルはヤギの絵だ。
何故だろう。ギリシャ神話に出てくる体が半分ヤギで好色な神のパーンとか、ヤギの頭を持った悪魔バフォメットとか、そういうイメージのつもりなのだろうか。
ボックはドイツ語でヤギなのかも。そういえば英語のバック(buck)に似ているような感じがするけど、それは果たして関係あるのだろうか。疲れているのであまり調べる気にならない。
話が少しそれて、イギリス英語で「疲れていて感情的」( tired and emotional )というのは酔っ払っていることを意味さす。先日の「フランスの手紙」に次ぎ、いかにもイギリス英語らしい婉曲表現で、気に入っている。そういえば、私は常時、文字通りに疲れているし感情的になっている。たまには婉曲表現としてこの二つの言葉を使ってみたいものだ。