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弾丸結婚式旅行 2

アトランティックシティから車で十分程のブリガンティーンに到着。パステル色の別荘らしい家が並ぶ静かな海岸沿いの町だ。あいにく雲行きが怪しいが、少し涼しげな秋のビーチも味わい深い。

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結婚式はカントリークラブで行なわれる。私たちが泊まるのはビーチが見渡せる近くのホテル。イギリスであればアガサクリスティーの作品、日本でいうと二時間サスペンスに出てきそうな、ちょっと古めかしいビーチサイドホテルである。ロビーにはロートレックのポスターやスイスチョコレートの昔の広告などが飾られており、クリーム色のベストとゆったりした深紅のズボンで暇そうに会話をしている若いボーイたちもレトロ感を引き立てている。エレベーターのボタンを押すとキリキリキリと謎の音がどこからともなく聞こえてくる。不気味とロマンチックの際どい間をいくホテルである。

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アメリカの田舎町のホテルは大抵こんなものだろう(と勝手に思っている)。一方ルポちゃんは、チーズクウェークに引き続きブリガンティーンの異世界にショックを受けている様子である。仕事で世界中の紛争地域を飛び回っている彼女であるが、アメリカの中途半端な田舎は不慣れなのだ。

アメリカは「中途半端な田舎」が多い。周りが畑ばかりになってしまえば、「田舎に来たなあ」と割り切って色々納得いってしまうのに、中途半端に拓けていると小さなことにいちいち違和感を覚える。ベストを着たニキビだらけのボーイや、50年代からそのまま残っているダイナー。スーパーの変わった品揃えや、コンビニで買うコーヒーの激安価格、またそのコンビニの前で群がっている少し太めの高校生。この町では車があまり通らない交差点にわざわざラウンダバウトを造ってしまったらしく、そのど真ん中に灯台の模型が設けられている。とても邪魔である。ニュージャージー州は日曜日にアルコールが買えない。プロヒビションの名残だろうか。テレビをつけてみると地元のニュースばかりで、これがまたローカル色強くて面白い。

などなど、つまらない観察を都会っ子の友人たちとしながら、式の支度をする。

最近の結婚式はテーマがあるのが流行っているらしい。昨夏に行った大学院の同期の結婚式は「風車」がテーマで、ゲストには風車のブローチが配られ、会場は一面が青と黄の華やかな風車で飾られていた。今回の結婚式は「海」テーマで、カラースキームは藍色、クリーム、ゴールドの上品な配色。招待状にタコやカモメが描かれているほか、灯台の形をした木製の小物がウェディングギフトとして配られる。

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なので海で統一されているのかと思ったら、各テーブルは鳥の名前が付いている。私たちのテーブルは 「つやつやしたトキ」組。ナンジャラホイ。

新郎新婦の家族が詩を読んだりスピーチをしたりした後、式は無事に終わり、カクテルアワーになる。つやつやトキ組の私たちは、友人が誓いを交わしているのを見て感動で号泣してしまったため、カクテルアワーを機会にお化粧直しをし、お酒が無料で頼めるオープンバーに向かう。オープンバーには既にゲストが殺到しており、早くも酔っ払って若者にちょっかいを出しはじめた迷惑な年配のブライズメイド(花嫁の介添人)や、まだ踊る時間でもないのに踊りだすおじさんが現れ、アメリカの結婚式っぽい面白い展開になってきた。

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花婿がイタリア系ということもあり、ウェディングケーキはカノーリケーキ。イタリアのお菓子、カノーリに使われるフィリングがたっぷり。アメリカならではのアイシングの色だなあ。

食事も新鮮な手作りパスタ、海鮮料理、ピッツァなど、イタリア系のものが多い。同じつやつやトキ組の小説家の男性と会話をしながら食べているが、気づくとワイングラスとシャンパングラスが魔法のようにいっぱいになっているので、頑張って飲み干す、会話に没頭しているうちにまた誰かが注いでくれたようだ、それも飲む…と繰り返しているとけっこう酔ってきた。忙しい食事である。

いよいよダンスの時間だ。最初のダンス(ファーストダンス)は新婦新郎が踊り、その後に新婦とその父親、新郎と新郎側の母親という風に大概決まっている。最後にオープンフロアになり、ゲストも踊り始める。因みに新郎新婦が選んだファーストダンスの曲はホワイトストライプスの「ホテルヨルバ」。さすがヒップな選曲だ。

夜が進行するにつれて、皆が汗をかき、ネクタイを緩め、酔っ払って、髪が乱れてくる。これは結婚式のお決まりごと。パティオでビールを飲みながら涼み、しばらくして会場に戻ってくると、先ほどまで恥ずかしがって踊りを拒んでいたつやつやトキ組の小説家も、会場の端っこで小さく体を揺らしている。

一方、新郎は飲みすぎて奥でぐったりしている。ほったらかしにされた新郎の様子を窺っていると新婦がこちらにやってきて、ウィスキーショットをわざわざ私の目の前でグビっと飲み、「あなたも踊りなさい!」と私に指示するのだ。それよりご主人大丈夫なのと聞いても、「早くバウンスして!」と言って聞かないので、「わかったわかった、ほらバウンスしてるでしょ」と音楽に合わせて体を上下にバウンスして見せると、新婦はとても満足気に「うぃー!」と叫びながらあちらに行ってしまった。このやりとりを観察していた小説家が、「良いバウンスでしたね」とコメント。ていうか私の踊りはどうでもいいから、誰か新郎のことを心配してやらなくていいのか。つまるところ、結婚式のこの時点になると、ナンジャラホイなやりとりが多い。

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なんじゃらほいになってきた。

アトランティックシティで二次会だ、景気良くギャンブルだあ!と言いたいところだが、疲れ気味のつやつやトキ組の大半はホテルに戻って仮眠をとることにする。カントリークラブの表でタクシーを待っていると、雨と磯の香りが風に乗せられてくる。二時間ほど眠り、まだ酔いが醒めないままシャワーを浴びてダンスの汗をしっかり落とし、まだ真っ暗の朝の四時半にブリガンティーンを出発。

チーズクウェークで休憩することもなく暗い高速をびゅんびゅん行くと、あっという間にニューワーク空港だ。ここでルポちゃんと再び別れることになる。早く車をどかせと後ろのニュージャージー人に喚かれているが、ギュッと抱き合いながら、また世界のどこかで会おうねと約束する。

トロント空港でやっと酔いが醒めたような気がする。酷使されて二日酔いになっている体に、せっかくカナダにいるのだからティム・ホートンのドーナツを与えてやりたい。しかし、色んな種類があるドーナツから一つだけ選ぶエネルギーは、今の私にはない。

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ドーナツを選ぶ気力はなかったが、白熊のマグネットを買う気力はあった。冷蔵庫の磁石ファミリーに仲間入り。

東京で帰りの電車に揺られていると、先ほどまでアメリカの中途半端な田舎の海辺で結婚したばかりの友人と踊っていたことが信じられない。疲れて、感激して、楽しかった、36時間の弾丸結婚式旅行だった。


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by majani | 2014-10-21 10:48 | 旅に待ったなし

カリフォルニア、ニューヨークを経て、ボストンにやってきた学者のブログ。海外生活、旅行、日常の記録。たまに哲学や語学に関するエッセイもどきも。


by majani