間が空いてしまいしたが、ロードトリップの続き。
海岸線をなぞる高速ルート1を走り続けていると、時々、遠くに汽車が見える。
「こんな所を通っているんですね」
「アムトラックかな。カリフォルニアで初めて見る」
母に貰った本に、英国人作家ジェニー・ディスキーの Stranger on a Train というノンフィクション作品がある。ディスキー自身が広大なアメリカを汽車で横断する話で、物思いに耽ったり、喫煙車両で出会った奇妙な人々―とはいえアメリカらしい温かさを感じさせる人々―とのエピソードなどを綴る。最後に読んだのは大学時代なので忘れてしまっている部分も多いが、あれは確かアムトラックで横断したのだった。私もいつかやってみたいと、強く憧れた。
その一部にあたる線路に私たちは差し掛かったようだ。
「ちょっと車を停めてみましょう」
モロ・ベイで岩登りができず冒険不足だったのか、ヘブンフィールドさんは素早く土手を駆け下りた。私は脚が気になって(面倒くさがって)上にいたが、やはり線路の上を歩いてみたくなり、急な斜面だけ手伝ってもらいながら、なんとか下りることができた。
そして線路の上を歩いてみた。見渡す限り、線路と海と空。その三つだけの、潔い風景。
少し先には、今年12月に誕生100周年を迎えるサンタ・バーバラの町がある。オールド・ミッションを一度見てみたかったので、次の休憩所はサンタ・バーバラに決定。
ヘブンフィールドさんは小学生の頃に出た宿題で、サンタ・バーバラにあるミッション(伝道所)のジオラマを作ったそうだ。ミッションとその歴史について学ぼうという趣旨だったのだろうが、なんとも渋い出題だ。模型作りはどのミッションでも良いということで、彼は華の ''Queen of the Missions'' とも呼ばれる、サンタ・バーバラのそれを選んだ。
「ところで、サンタ・バーバラの町ってミッションの他には何があるんでしょう」
「ケータイで調べながら行きましょうか」
線路沿いを走りながらの会話だ。小さな古いワイナリーがいくつかあるけれど(伝道所で儀式に使うワインでも作っていたのだろうか)、
パソ・ロブレスで十分に試飲できたことだし、歴史的な建物が見られるウォーキング・ツアーなどは時間がかかるのでダメ。
すると、ケータイの小さな画面で私は奇跡的な文字を目にする。サンタ・バーバラのミッション街で「世界一のアイス」が食べられる、とあるのだ。
「それはどこですか!」
「マコネルズとかいうお店です。タイム誌がここのアイスが世界で一番美味しいアイスクリームだと言ったらしいですよ」
「世界一!大きく出たね、タイム誌。これは食べてみなきゃ」
いっそアイスだけでもいいんじゃないか・・・と一瞬だけ頭をよぎるが、いえいえ私たちは真面目ですから、まず歴史的な伝道所をちゃんと見にいきました。
1786年に設立されたオールド・ミッションに到着。ヤシの木や変わったサボテンが生えていて、果樹園などもある緑豊かな伝道所。
忘れがちですが、ナンデモアリフォルニアも地震の国なんですね。1925年の大地震で崩れた部分を修復したとある。
数ある伝道所の中でも「女王」なのだから、重厚感のある厳かな建物を予想していた。実際は礼拝堂の円柱が淡いシェルピンクで、建物の曲線は柔らか。本場(?)スペインのカトリック教会もこのような色彩が主流なのでしょうか。いずれにしても、二つある鐘の塔は、サンタ・バーバラのとろりとした夕日にちょうど合う色。
何となく日本人ぽい顔をしてミッションの外に立っているのは、修道僧のフニペロ・セラ(Junípero Serra)。そういえば、私たちのざ・ふぁーむも、セラに因んだ名の道やアーケードがいくつかある。
さて、ミッションの説明を手短にしたところで、アイスの話に戻る。
早速、私たちも列に加わり、精力的に色々な味のアイスを試食する。アイスクリームが小さなプラスチックのスプーンに乗ってくると、とても嬉しくなる。グリーンピースより大きくて、イチゴよりは小さい。中間のブドウくらいの大きさの冷たーいアイスの粒を口にぽこっと入れるのが良いのだ。試食は本チャン以上に楽しめるかもしれない。
世界一のアイスを謳っているからには、そりゃあまず定番のバニラを注文して判断するべきだと、後になってふと思った。しかしその時は後ろから押し詰めてくる客を見て焦ってしまい、チュロス・コン・レチェと、シーソルト・クリーム&クッキーという、複雑そうな二つの味を選んでしまった。
「世界一」の味は、とても甘く、舌がじーんとした。アイスを食べるには、少し寒かったのかもしれない。
Or me.