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UCLとベンサム

ロンドン「下見旅行」の続きです。

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限られたフリータイムの中、University College London の資料館や博物館を回ることができた。UCLはロンドン大学の数多い学校の中、最も古いカレッジだ。

以前、ハイドンと牡蠣に関する思考実験を紹介した。その記事でも触れた功利主義の父とされる哲学者、ジェレミー・ベンサム(1748年~1832年)の遺体が auto-icon (オート・イコン)として生前の姿そのままに保存されており、キャンパスで展示されている。

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参照:UCL Bentham Project

ベンサム自身の遺志によりミイラがUCLに残されたわけだが、顔の部分が生々しすぎたとのことで(UCLが使っている表現は “decidedly unattractive” )、頭だけ蝋のものに替えられている。ベンサムは死ぬ前の10年間ほど、自分のオート・イコンに使う目的としてガラス製の目玉をポケットに入れて持ち歩いていたという一説がある。

今なお、大学の評議会の会議にはベンサムのオート・イコンが運ばれ、「ベンサム教授も出席されたが、賛否には加わらなかった」と議事録に記録されるらしい。

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ベンサムは19世紀前半にわたり、政治社会の正しい目的とは社会を構成する人々の「最大多数の最大幸福」であると説いた。

政治家であれ普通の庶民であれ、社会におけるステータスに関わらず、 “every individual in the country tells for one; no individual for more than one” というベンサムの考えは、イギリスを始め、アメリカやフランス、後に世界中の民主主義に多大なる影響を与えることになる。

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また、大学は幅広い階級の者を受け入れなければならないとベンサムは考えた。その理念に応え、オクスフォードやケンブリッジなどに対し、学生が高い授業料や宿泊料を払わずに実家から通える都心の大学として設立されたのがUCLだ。

あいにく、私たちがUCLを訪れた日はベンサムのオート・イコンはどこかに借しだされていたらしく、見ることができなかった。過去にベンサムの政治哲学について学部生を教えていたことがあるので、普段彼が座っている大きな木製の箱の隣に立つだけでも感慨深いものだった。

ところで、オート・イコンは立派な展示室に置いてあるのかと思いきや、若い学生が慌ただしく行き来するがやがやした廊下の隅に奥ゆかしく座っている。庶民の利害を推進したベンサムの性に合っているともいえる。

ロンドンの旅、続く。



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by majani | 2016-12-21 09:40 | 旅に待ったなし

カリフォルニア、ニューヨークを経て、ボストンにやってきた学者のブログ。海外生活、旅行、日常の記録。たまに哲学や語学に関するエッセイもどきも。


by majani