涼しい。なんて、涼しいのだ!
延々と続く山道の末、やっと公園の入り口が見えてきた。適当なデスバレーと違い、ここはちゃんとしたゲートがある。入園料を支払い、Generals Highway(将軍の高速)という名の道路を行く。
1890年に3番目の国立公園として設立されたこの広大な公園には、世界一大きな木、もう少し丁寧に言うと、「体積が世界一」の木が聳える。
「ジャイアント・フォレスト」に生える、General Sherman (シャーマン将軍の木)がそうだ。
人が映っていないと、規模が伝わらない。しかし人を入れると、木の上の部分が映らない…。
さらに背が高くなるのは、シャーマン将軍の木のようなジャイアントセコイア(Sequoiadendron giganteum)と時々ごっちゃにされてしまうレッドウッド(Sequoia sempervirens)の方である。一般的にセコイアは幹が太く、レッドウッドはもう少しスレンダー。
因みに、サンフランシスコから日帰りで行ける人気の
ミュアーウッズに生えているのはレッドウッド。
ジャイアントフォレストはいくつか易しいトレールがある。シャーマン将軍の木を取り巻く観光客からちょっと離れてみよう。
声を潜めると、沢山の小さな生き物たちの気配を感じる。
ビートリックス・ポッターの Squirrel Nutkin にそっくりな丸々としたリスや、ダークチョコレート色のシマリスが、マツボックリの上をカサカサと音を立てて駆けて行っては丸太の上でポーズを取る。これがとても可愛らしい姿で、すばしっこいシマリスを一匹連れて帰りたくなる。
幹のベースに火傷を負ったような巨樹を数多く見る。何が起きたのだろう。
木の保護を始めた当時は山火事が起きるとすぐに消していたが、火事はセコイアのライフサイクルで重要な役目を果たしている。
セコイアはその長身とは裏腹に根がとても浅いため、樹下に下草がはびこると致命的。つまり山火事による定期的な大掃除が必要なのだ。また、セコイアの種子は火の熱が加わらないと落下しない。山火事で樹下の大掃除が済み、種子が発芽しやすい灰が整ったタイミングで、火でパキパキに乾いたマツボックリが地面に落下するというスマートな仕組みになっているのだ。セコイアは10年~30年ごとに山火事を体験する。
まるでアートインスタレーションのように焼きただれた木。
巨樹は外側の皮が厚くなっていて、大抵の火事にびくともしないが、弱っている木や若い木はこうなってしまうことも。このプロセスによって、ちょうど良い数の健康な木が残る。
数々の山火事を生き抜いてきた巨樹、25~50歳くらいの若い木、そして発芽して間もない苗、それぞれが同時に見られるセコイアの森は健康な状態にある。自然の山火事では被害が広がってしまうため、公園では planned fires といい、人為的に小規模の火事を実地しながら森の健康を促している。
火がセコイアの命を繋いでいるわけですね。アナグマが夜遅くまでパーティーをしていて火事を起こした、という私の希望的な仮説は成り立たなかった・・・
・・・が、木の根元にある火事跡を覗いてみると、齧られた小さなマツボックリがかき集められている。アナグマのパーティーはなかったけれど、リスのパーティーはあったかもしれない。
デスバレーからの移動に時間をかけてしまったので、この日は Hospital Rock を見がてら新しい宿へ引き上げる。
ホスピタル・ロックは、ネイティブアメリカンの Potwisha 族が14世紀から生活していた跡地。1860年にジャイアントフォレストで怪我を負った探検家が、ネイティブアメリカンに手当てをしてもらったことから、この名前が付いたとか。
ポトウィーシャ族が使っていた「台所」。巨大な岩体をすり鉢替わりに、ここでドングリを粉末にしていた。ドングリ粉って、なんだか美味しそうな感じがする。
岩をよじ登って少し歩くと、先ほどのジャイアントフォレストとは違う感じの森が見下ろせる眺めの良い場所に出た。
道路沿いでよく見かけるこの看板。人が持ち込んでくる食べ物や、シャンプーや石鹸など美味しそうな匂い(熊にとって)がする物に惹かれてカリフォルニア・ブラック・ベアーがちょくちょく出現するらしい。
遭遇しませんように。
夕方のセコイア国立公園。砂漠地獄から天国にやってきたようだ。
翌日は、中心に写っているウサギの仲間、パイカが住処とする岩っぽいエリアでハイキングをする予定。この珍しい蛙も是非、見つけてみたい。
ワクワクしてしょうがなかったみたいで、この夜は、カエルとパイカと晩酌する夢を見た。今まで見てきた夢の中で、良い方だと思う。