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ブロードウェイで泣く(そしてパイを食べる)

引き続き ブロードウェイミュージカルの話。今回は感動する作品について。

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Hello, Dolly!

高校時代のジュリエットと私は、アンドリュー・ロイド・ウェバーに負けない大御所作曲家のスティーブン・ソンドハイムが手掛けた Into the Woods というミュージカルにハマっており(2014年にメリル・ストリープ、ジェームズ・コーデン主演の映画が出ている)そのビデオ鑑賞会をよく行っていた。(今思えば、擦れていない大真面目な高校生だった。)「赤ずきんちゃん」や「ジャックと豆の木」など有名な童話に登場するキャラクターたちが、何かを強く望むことによって招いてしまった思いがけないハプニングを追うストーリーだ。ブロードウェイの大女優であるバーナデット・ピーターズが、オリジナルキャストで迫力ある魔女を演じている。私たちはたちまちピーターズの大ファンになった。

そのバーナデット・ピーターズが主人公を演じるコメディー Hello, Dolly! が今回の大目玉。

設定は19世紀末のニューヨーク。世話好きな未亡人ドーリーは、老若男女を恋に導くマッチメーカーとして街で有名。しかしドーリー自身は独りの生活に苦しんでいて、郊外ヨンカーズの "half-a-millionaire" として知られる、怒りんぼなホラス・ヴァンダーゲルダーと再婚しようかと考える。困ったことに、以前ヴァンダーゲルダーにお見合い相手を見つけてあげてしまっているため、ドーリーは彼のハートを奪還するべく作戦を立てる。そんな中、ヴァンダーゲルダーが営む店の若い従業員コーネリアスとバーナービーは、恋愛と冒険を求め、秘密でニューヨークに乗り込む。帽子屋でアイリーンとミニーに出会うが、そこへ雇い主のヴァンダーゲルダーが現れトラブル発生。どんな奇想天外な展開でも上手くことを収められる賢いドーリーであるはずだが・・・?

初心な若者たちや恋に無作法なヴァンダーゲルダーなど、ドーリーを取り巻く様々な関係者が、ニューヨークの超高級レストランに集まるシーンがミュージカルのクライマックスだ。色鮮やかなドレスを着たニューヨーカーが行き交うさり気ない街のシーンから、ウェイターたちが踊り狂う爽快なレストランシーンまで、音楽、衣装、コリオグラフィー、全てに胸がときめく。古典派ミュージカルだからこそ何となく安心して観ていられる『ハロー・ドーリー』は、2017年にブロードウェイに戻ってきてベスト・リバイバル部門でトニー賞を受賞している。

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バーナデット・ピーターズがブロードウェイステージに立つのは20年ぶり。彼女が演じるドリーが最初に登場するシーンで、すでにスタンディングオベーションが起きる。ミュージカルのタイトルともなっている "Hello, Dolly!" というナンバーで、紛れもないルビー色のドレスを着たピーターズが "It's so nice to be back home where I belong" と歌うと、観客はいっそうに手を叩きならし、私はつい涙ぐんでしまう。ブロードウェイに、お帰りなさい!

因みにハロードーリーは、19世紀の戯曲をもとにしたソーントン・ワイルダーの劇 The Merchant of Yonkers がミュージカル化されたもので、元ネタがそ~と~古い。そのため、「女の取柄は家の掃除」的な古めかしい台詞が時々あるが、ピーターズ主演の現代版では(#MeToo後でもある)台詞の読み方(delivery)の工夫でコミカルな効果を狙うなどして、ストーリーが時代遅れだと感じさせないように努力している印象を受けた。

ピーターズのコメディーセンスはピカイチだし、アイリーン役のケート・ボールドウィンの歌声には聴き惚れてしまうし、バーナービー役のチャーリー・ステンプの可愛いことったら。またすぐにでも観たい作品です。

一目でいいからバーナデットを見たいと楽屋口で雨の中一時間半も待ったのですが、残念ながら会えず。(チャーリー・ステンプは一人でとことこ出てきて、待っていた高校生たちのプレイビルをサインしてあげたり、写真を撮ってあげたりしていた。可愛いうえに、凄くイイ人。)今でも若い子たちが、大昔の私たちのようにこうしてミュージカルに胸をときめかせているのを楽屋口で目撃し、とても嬉しく思った。

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Wicked

こちらは近年の王道ミュージカル。『魔法使いのオズ』に登場する Wicked Witch of the West (西の悪い魔女)がどうして悪い(wicked)魔女になってしまったのか、その経緯を辿る壮大ミュージカル。後に「悪い」魔女となるエルファバ、そして善良な魔女グリンダとして知られるようになるガリンダ(名前がどうして変わるのかはミュージカルでチェック)の間の、時には緊迫した友情の描写に感動する。

歌とそのリリシズムがとにかく良い。エルファバ役とガリンダ役の歌唱力に全てがかかっているとも言える。また、"Defying Gravity," "The Wizard and I," そしてフィナーレの "For Good" など数々の名曲がありますが、魔法使いのオズの話を知っている方が楽しめるかと思います。

このミュージカルでは第一幕の "The Wizard and I" で一度ぐっと涙をこらえ(アップビートな歌だけれど、後にどうなってしまうか分かっているだけに悲しい)、最後の "For Good" でうおおおおんとジュリエットと泣く。女の友情ものに弱い女二人です。

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Waitress

ガラリと変わって、現代のアメリカ南部の田舎町。小さなダイナーでウェイトレスとして働くジェナは、亡くなった母親から学んだパイ作りの名人。ダイナーで出している自家製パイは、どれもちょっと変わった名前が付いている。こうしてパイを焼いたり仕事仲間たちと他愛無いお喋りをする平凡な生活を送っていたが、ある日、妊娠が発覚。父親は、ろくに仕事もせずジェナから金を巻き上げるのが日課となっている夫のアール。愛がとっくに消えた結婚生活から逃げ出すべきか悩むジェナは、彼女を担当する産婦人科医のジム・ポマターに惹かれていくが・・・。

『ウェイトレス』は2015年にマサチューセッツ州でプレビューが始まり、2016年にブロードウェイで開幕したばかり。4部門でトニー賞にノミネートされている。私たちが観に行ったバレンタイン辺りの時は、作曲作詞をしたサラ・バラレスが自ら主人公を演じ、ポマター役はシンガーソングライターのジェイソン・ムラーズだった。ああもう、サラ・バラレスが泣かせる!演技が上手い!声が良い!(オリジナルキャストのジェシー・ミューラーも観客を唸らせる演技力と歌声の持ち主。)甘いマスクのジェイソン・ムラーズも、見ているこちらがモジモジしてしまうほど awkward ながらもチャーミングなポマター先生役を上手く演じきっている。

ジェナの夫アールのダメ男炸裂ぶりに観客の怒りが増していくのが手に取るようにわかる(アールはジェナに対し暴力を振るうまではいかないが、その危機感が常にモヤモヤとあり、ジェナの恐怖感が伝わってくる)。ジェナのソロナンバー、"She Used to Be Mine" が終わった時にはその怒りは悲しみに変化していて、周りから「ぐすん、ぐすん」と女性がすすり泣いたり鼻をかんだりする音が一斉に聞こえてきた。実は私もうおおおん状態で、ふと隣を見るとジュリエットも必死にティッシュで目を拭っている。

バレンタインデーに近かったのでカップルが多かったのですが(男性陣はデートのお相手が急に泣き出して困っている様子だった)このミュージカルは、一応「男に頼らず強く生きる女」みたいなのがテーマとしてあるので、良き女友達と観て、一緒にうおおおんとなりたい作品。

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また、非常にパイが食べたくなる作品でもあります。

パイ~、パイはどこだ~、と私たちは Little Pie Company (www.littlepiecompany.com)へ向かった。こちらのはマンハッタンで見つけたパイの中で頗る美味しいと感じている。事前に注文をしておかなくても良いというのがさらなる利点。

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パイを一切れ($4.50)その場で温めてもらって食べることができる(アラモードも可)。私はリンゴとクルミとサワークリームのパイ、ジュリエットは王道のベリーパイ。ブラックコーヒーと合います。

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パイをホールで買うのは少し大袈裟だなと考え、ミニサイズの梨とリンゴのクランブルパイ($8.50)を持ち帰った。後日オーブンで15分ほど温めて、ミュージカルのことを思い出しながらデザートを楽しんだ。

しかし一週間でいくつもショーを観ると、さすがに疲れる。そして一気に貧乏になったような・・・。しばらくはおとなしく家で夜を過ごしたいと思う。




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by majani | 2018-02-24 03:25 | 旅に待ったなし

カリフォルニア、ニューヨークを経て、ボストンにやってきた学者のブログ。海外生活、旅行、日常の記録。たまに哲学や語学に関するエッセイもどきも。


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