人気ブログランキング | 話題のタグを見る

エクアドル訪問

研究発表という名目のもと、エクアドルの首都キトに行ってきた。

エクアドル訪問_f0328897_03170427.jpg

南下するだけだからすぐじゃないか、と思っていたのだが、パナマ経由のうえフライト数が少ないため、延々と移動を続けてへろへろになった状態でキトに降り立つ。それでも美味な南米料理(例として上のパエリア的なランチ)を夢見ながら頑張る。

宿に手配してもらったタクシー運転手ホルヘさんが、空港まで迎えに来てくれていた。以前も書いたと思うが、私の名前はスペイン語でちょっとおかしな意味があるので、その名前が大きく書かれたサインを持っていたホルヘは少し恥ずかしかったのだろうか。

普段なら運転手に迎えに来てもらうなんてVIPなことはしないのだが、少し気になることがあった。何年か前に学会で知り合い、仲良くなったペルー人の女性が、数日前にエクアドルに着いていて、私は彼女と「思いがけずエクアドルで再会できるとは!」と連絡しあっていた。その矢先、彼女がキト一日目にしてバス停でひったくりに遭い、ケータイや財布やパソコンをごっそり持っていかれたという話を聞いたばかりだった。幸い怪我はなかったものの、可哀想に友人は完全に怯え切っていて、「絶対タクシーで来い」と私に念押しした。

悩みナンバーワンが、「好きな講師が今週のピラティスクラスを休んでる!ぷんぷん」といった北カリフォルニアや(ジムに通ってなかったけど)、「レストランに予約を入れておいたのに15分も待たされた」といったニューヨークで(これはよくあった事実)、最近は甘~い生活に胡坐をかいていた私。しかし人が目の前で殴り殺されたりする発展途上国のスラムでフィールドワークをしていたのだから、スペイン語が喋れない無防備なバックパッカーが闊歩する観光都市キトなんてへっちゃらだよね?とリルケに言うと、「僕は怖いから一緒に行きません」と彼は即答し、一人で一時帰国してしまった。後に日本から「バルセロナのノリじゃ駄目ですよ!気を付けてください」という投げやりなメッセージが届く。なんぢゃい!

実際、全く怖くなかった。外で徐にケータイを出さない(スマホは悪目立ちするので、目をつけられて違う場所でスリに遭うパターンがある)、夜は一人で歩き回らない、タクシーは宿に呼んでもらった人か信頼できるアプリを使う、等々、コモンセンスなルールに従って行動していた。

というわけで、ケータイをあまり使っていなかったため、今回の旅は写真が物足りないのだが、数回に分けてキトで見た物、感じたことなどを記録しておきたい。

エクアドル訪問_f0328897_04023725.jpg

数々の歴史的建造物を誇り、UNESCO世界遺産にも登録されているキトの旧市街。その少し右上(テキトー)に位置する Mariscal Sucre を中心とする新市街に向けて車を走らせる・・・

・・・計画なのだが、車に乗った時点で、シートベルトが壊れていることにまず気が付く。

ホルヘは、「へえ、シートベルトなんかしたいの」と意表を突かれたような表情だ。私より背が低いホルヘは小回りが利く男で、テキパキと、コレをココに通して、このガムテープで抑えたらどうだ、とひとしきり工夫をしてくれるのだが、埒が明かず(だって壊れてるんだから!)、疲れている私は、もう気にしないで、行きましょう、と出発を促す。

受け入れ側の大学施設から、キトはアンデス山脈の街で標高2850メートルといった高地にあるので、高山病ご用心、という内容の注意があった。頭の中ではわかっていたものの、小一時間離れた、比較的低地に位置する空港からキトを目指して上っていくと、はっとする光景が数々ある。上のグーグルマップのサテライト画像でも分かるように、ごちゃごちゃした街の東はいきなり暗い傾斜だ。まずは白く見える太い高速に乗り、そこからさらに Guápulo というエリアを抜けるくねくねした山道を上りながら、やっとのことで新市街に辿り着く。

エクアドル訪問_f0328897_04412571.jpg
高速を降りる。これでもかなり上ってきたのだが、街の光はまだまだ遠い。そして写真が物凄くブレている。

芸術家タイプが多く住むグアプロを抜けるルートは、車一台がやっとのことで通れるほどの狭い石畳の道だ。グアプロに差し掛かった時点では日がとっぷり暮れ、数少ない街灯が、こんな大変なところに建てちゃったのか!と驚くほど急な斜面に並ぶ煉瓦の屋根の小さな家を亜麻色に照らし出し、シートベルトが壊れた黄色いタクシーはううんううんと喘ぐようにして進んでゆく。

上手く説明できないが、バルセロナのサグラダファミリアを町のスケールにして、それを世にも小さなへっぽこタクシーがてっぺん目がけてよじ登っているのだ、という感覚だった。まるで夢に出てきそうな、迷宮を彷徨う異世界感で、私はずっと子供のように窓にへばりついていた。

エクアドル訪問_f0328897_05090641.jpg

今回の宿は大手ホテルチェーンではなく、ブティックホテル(?)的な bed & breakfast だ。私一人で泊まるにはもったいないほど、がらーんと広い部屋。ハンドバッグが描かれたカーペットと似非暖炉がナイス。

バーが多いエリアらしく、人通りがある分、治安が良いような気がする。少し歩けばコンビニぽい小さな店もある。そこで店番をしていた5歳児くらいの小さな男の子が、ビンジュースを売ってくれた。

エクアドル訪問_f0328897_05163693.jpg

ん?と思うファンキーなインテリアが持ち味の宿だった。夜遅く部屋から出てくると、ちょっぴり不気味なこの女性の置物に一瞬ビクッとする。

宿には、街頭から入る門、建物に入るドア、寝室のドア、いずれにしても10桁くらいある厳重な暗証番号システムが設けられている。私はけっきょく最後の日まで暗証番号を暗記することができず、毎回、宿の前で、控えておいた番号をどこにしまったかなとポケットをごそごそやっていた。

着く前から、ホテルマネージャーとロジの件で(暗証番号のこととか)メールでやりとりをしていた。初老の女性かなあと勝手に想像していたら、私より若く、英語、フランス語、ドイツ語を自由自在に操る超美人な明るいエクアドル人だった。あなたが好きだ―!と飛びつきたくなる。キッチンやハウスキーピングのスタッフとも何度か会話をしたのだが(初日に金庫の騒々しいアラームを作動させてしまい、助けを求めた)彼らは英語がダメだったので、私が変なスペイン語をずっと喋っていた。皆さん、奇妙なスペイン語を口走るアジア人に優しくしてくれて、どうもありがとう。ホテルスタッフの親切さには本当に感激した。

チップのつもりでベッドに置いておいたお金が、部屋に戻ってくると、律儀にベッドサイドテーブルの上にきれいにたたんであったことには、ほう、と思った。

エクアドル訪問_f0328897_05302599.jpg

そしてなんといっても、この朝食。毎朝、美人マネージャーに伝えておいた時間に、スタッフが「シンプルなデサユーノ(朝ごはん)ですが、どうぞ召し上がれ」と部屋に届けてくれる。私は卵を huevos revueltos (スクランブルエッグ)にしてもらった。新鮮な果物は、パパイヤやオレンジ、スイカやメロン、毎朝少しずつセレクションが違う。

エクアドル訪問_f0328897_05362081.jpg

これだけ100個おかわりー!と叫びたくなる可愛らしい丸い pan de yucaは、キャッサバ粉とチーズで作られたエクアドルでよく見るパン。平凡な見た目に騙されないで。中がモチモチしていて、トウモロコシ的なほのかな甘さとチーズの塩気のコンビが実にクセになる。普通のパンは、手作りのジャムやチーズを乗せて食べた。

エクアドル訪問_f0328897_06084881.jpg

熱々で、私好みの濃いコーヒーがポット一杯運ばれてくる。エクアドルのコーヒー、あまり知られていないかもしれないが、凄く美味しい。

こうして、「う~、幸せだ~」とパンデユカをもぐもぐ頬張りながら、窓の外に生い茂る緑の中を愉快に飛び跳ねる鳥を観察していた。とぅーぽぽぽぽぽぽっぷぉっぷぉっ、と今までに聴いたことのないヘンテコな鳴き声に、いいねえ、しびれるサウンドだ、と思った。



ブログランキング・にほんブログ村へ

by majani | 2018-08-21 06:28 | 旅に待ったなし

カリフォルニア、ニューヨークを経て、ボストンにやってきた学者のブログ。海外生活、旅行、日常の記録。たまに哲学や語学に関するエッセイもどきも。


by majani