年末のこと。仕事の合間を縫って、ハーバード美術館に行ってきた。
改装されてから初めて訪れた。
絵具のコレクションが保管されている最上階まで見える、開放的な吹き抜け。
さて、この時期は Animal-Shaped Vessels from the Ancient World という特別展示会が公開中だった。なんて愉快なテーマだろうか。
古代ギリシャ、ローマを始めとする様々な地域で、宗教儀式などに使われてきた、動物の形をしたコップ、花瓶などがキュレートされている。上に写っているのは、ブドウ酒を入れるもの。かなり重たそう。
上と同様、リュトン(古代ギリシャでなどで使われていた角杯)。コーン型の部分は、動物(よく見ると、グリフィンのような、鹿、鳥、猛獣の部分が混じっている神秘的な獣だ)の角の、粗くごつごつした質感が銀細工で再現されている。
それぞれの出土地域、時期、素材、具体的な用途はバラバラであるが、「動物」のシンボルを通して、自然の運行を支配する何らかの偉大な存在に近づこうとする「人間臭さ」が、展示物に一貫してうかがえる。
絶妙にヘンテコなサーサーン朝のリュトン。こういうの、いいねえ、と思う。式典などシリアスな用途の物から、日常的に使われていた器が並ぶが、いずれにしても動物がどこかひょうきんな表情を浮かべている。
ひょうきんな人間も。
この恐ろしい物は、何だろう。モチェ文明(現在のペルーにあたる)の4世紀あたりのボトルらしい。説明に、宗教儀式の参加者に配られた品と思われる、とある。要は、古代の「参加賞」である。家で留守番をしていたら、儀式に出てきた家族の者が、「今日、実は行くのがちょっと面倒くさかったんだけど、こんなのもらえた!」と、持って帰ってきたりしたのだろうか。
真ん中に堂々と立つ、丸みを帯びた牛の置物。これなら家に持ち帰りたい。右の水瓶なんか、取っ手が付いていて意外と使いやすかったりして。
さらに小さな象牙の彫り物、細かいレリーフは、ディスプレイケースに設置された虫眼鏡をのぞいて見る。
一瞬だけ立ち寄るつもりが、面白いのでずいぶん時間をかけてしまった。通路に出てよっこらせ、と座りそうになってしまった石は、フェミニスト芸術家のアートインスタレーションだった。
一階のカフェでおやつを食べるかどうか、悩む。サスガに仕事に戻らなければならず、コーヒーをテイクアウト用の紙コップに注いでもらい、美術館を出てきた。コーヒーカップが動物の形をしていたら、面白いのに。
暫し古代の神たちに近づけた午後だった。