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ローマの休日

リルケがローマで研究発表をするというので、私も乗り込むことにした。

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イタリアを訪れるのはほぼ15年ぶり、ローマは初めてだ。主人は可哀想に仕事だが私は思い切りバカンスモード。メアリー・ビアード著『SPQR』という古代ローマの歴史の本をぱらぱらめくり(これが凄く面白い)、香り高いオリーブオイルと新鮮なパスタを夢見てウキウキしながら飛行機に飛び乗った。

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ホテルの部屋からの眺め、というかお隣の建物のベランダの覗き見している感じになってしまった。スタイルも時代も違う建物がツギハギになっていて面白い。


ナヴォーナ広場付近のパラッツォナヴォーナというブティックホテルに泊まっている。出発直前まで忙しかったため適当に押さえた宿だったが、パンテオンやトレビの泉など数々の観光名所や国立美術館に簡単に歩いて行ける、私のようなローマ初心者にはモッテコイの場所にある。

観光客が闊歩するエリアでも一本裏道をはいったところにあるので、カモメの鳴き声を差し引けば、とても静か。

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空港からのタクシーの中で、次々と窓の外を流れていく遺跡や立派な建物に感服した。これでもかというくらい、遺跡がゴロゴロ転がっている。

遺跡について後程もう少し丁寧に書くことにするが、名前が付いていないような所にもさりげなく登場するのだから面白い。例えば、美味しいかなあと覗き込んだクチーナ・ロマーナ(ローマ料理)の店の横。ふと見上げると、いかにも古そうな(中世のもの?)遺跡らしきものが両側の建物に溶け込むかのように取り込まれている。

私が現在住んでいるボストンは「歴史がある街」と謳っているけれども、さすがはヨーロッパ、それもローマ。リーグが全く違う。ボストンの歴史が一つの音符だとすれば、ローマの歴史は長いシンフォニーである。

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リルケより一足早くローマに入ったので、半日一人で街をぶらぶらした。

ルネッサンス期に活躍した彫刻家ベルニーニによる美しい噴水が中心にある Piazza Navona。ホテルのレセプションの人に、あの建物の裏がピアッツァだから部屋の用意ができるまで行ってみたらいいと言われ、眠いなあしんどいなあと思いながらヨボヨボ歩いていった。

狭い石畳の路地を抜けて古びた建物の裏に出ると突然、ぱあっと白い日差しが注ぎ込み、びっくりして佇んでしまった。こんな素敵な広場の裏に泊まっていたのか。小麦粉色の日除けのカフェが広場を囲い、あちらのベンチでは髭の男がソウルフルなチェロを弾いている。眠気が一気に引き、ヨーロッパに戻ってきたんだ、と感激と切なさが同時に私の中に宿った。ヨーロッパに来ると一瞬ちょっぴり悲しくなるのはどうしてでしょう。

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エジプトのオベリスクに似せたもの。オベリスクの天辺にはオリーブの枝をくわえた鳩が。噴水の手前には、スーツが似合う男が。


四つの川を描いた、ベルニーニによる Fontana dei Quattro Fiumi 。17世紀に、ローマ教皇インノケンティウス10世のために造られた。アジア、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカの川の神たちは、四つもの大陸を制した教皇権の影響を表している。

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リモンチェッロとサクランボのリキュールを試飲したり、大きな束になってぶら下がる観光客向けの色鮮やかな革バッグを見たり、イタリア製のセクシーな革靴を足にはめてみたりした。

一人で散策していて、思った。イタリア人男性は女性に優しい。というよりも、「そうだ、私は女だった」と意識させる。私は飛行機降りたて、髪がザンバラ、落ち武者のような姿でうろうろしているが、イタリアのウオーミニはこのいでたちに動じることなく、にっこり笑顔でフラートしてくる。観光地だから、とも思うけれど、ちょっと前だったらうっとうしく感じたであろうアプローチは、普段の環境が枯れたおじいさんでごった返している学者たちの世界なだけに、なんだか可笑しかった。

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ナヴォーナ広場の北側にある噴水 Fontana del Nettuno は海の神ポセイドン(ラテン名はネプチューン)が巨大なタコと戦うシーンを描いている。その周りで海の女神 Nereids やエロス(キューピッド)が戯れる。古代の海の神 Nereus の50人(!)の娘たちのことをまとめて Nereids といい、ポセイドンと結婚したアムピトリテや、アキレスの母テティスもネレイスに含まれる。ギリシャ神話の家族関係って複雑。


残酷な暑さ。トーガに着替えたい。

ナヴォーナ広場に戻ってきてカフェで本の原稿に手を入れていると、若いウェイターがニコニコしながらちょっかいを出してきた。国と名前を聞かれたので答えると、彼は英語で、「それはエレガントな名前だ。あなたにぴったりだ」と褒めたたえ、「何故ならばあなたはヒメだからだ」と姫(?)だけ日本語で言うのだ。珍妙な発言、そして「上手く言えた」というウェイターの得意げな表情にクスっと笑ってしまった。きっと、「ねえ、プリンチペッサって日本語でどうやって言うの」とカワイイ日本人の女の子に訊ねて以来商売に使っている、彼の中の殺し文句なのだろう。

でもチップは置いていかなかった。お勘定がしやすい国にやってきた。

ローマの休日、続く。


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by majani | 2019-07-23 01:07 | 旅に待ったなし

カリフォルニア、ニューヨークを経て、ボストンにやってきた学者のブログ。海外生活、旅行、日常の記録。たまに哲学や語学に関するエッセイもどきも。


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