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ペンの呪い

フィラデルフィア旅日記の続き。

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ペンズランディングにある Spruce Street Harbor Park へ。

去年生まれたばかりのこの「ポップアップ公園」が楽しめるのは、短い夏の間だけ。デラウェア川沿いのボードウォークに、フィラデルフィアの人気カフェやバーの屋台がずらりと並ぶ。涼しげな木から吊るされた色鮮やかなハンモックに体を委ねるカップル、冷たいビールを片手にシャッフルボードの遊びを楽しむ大人たち。夏らしいお祭りの雰囲気だ。

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これはラッキー。先ほど通りかかってとぐろを巻いている大行列を見てすぐさま諦めた Franklin Fountain のジェラート屋が、さり気なくここに屋台を設けている。

すっきり味のライメードを一気にじゅっと飲み干したい気分もしたが、「ここはジェラートが人気なのよ」とハーパーリーに諭され、上品なブラックベリーのジェラートを頼んだ。メガトロンの桃のジェラートも一口盗む。

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マーケットとレティシア通りの街角で通りかかった、Franklin Fountain の本店。

日が照りつける中(ほろ酔い状態で)長時間歩き回っていて、グループの士気が落ちてきた。「元気付けに何か買ってくるよ!」と張り切ったヴィンセントギャロが、使い捨てコップになみなみと注がれた赤ワインとビールを持ち帰ってきた。コーヒーが売り切れていたらしい。

ところで、公園でワインを飲んでいる私たちであるが、これは違法ではないのか?人魚姫さんがサンフランシスコの公園でビールを飲んでいたら、公共の場での飲酒で召喚状をもらった事件を思い出した。(ドロレスパークで何をしていても誰も捕まらないのになぜ私に限ってと彼女は体を震わせて悔しがった。)

説明したがり屋さんのギャロが、よくぞ聞いてくれましたと腕まくりをする。

ペンシルバニア州の風変りなアルコール販売規制は割とよく知られている。例えば、ワインやリキュール等のアルコール販売が許されているのは、州が運営する酒屋だけ。しかし州の酒屋はビールを売っていない。ではビールが飲みたい場合は「ビール販売業者」の専門店に行くが、通常、ケースごとでしか売られていない。ボトル一本だけ買わせてくれという時は、アルコール管理委員会の公式ライセンスを所持するレストランを探さなければならない。

…なんだかとても面倒くさい話である。それにギャロの説明は長いので、途中で飽き始めた私は情報を間違えて覚えてしまった可能性が高い。

そうそう、公園での飲酒の話でした。ハーバーパークという新しい企画に乗じてなんとか一稼ぎできないかと考えたフィラデルフィアの飲食業者は、うまいこと法律の抜け穴を発見したんですね。レストランではなくケータラー(仕出し屋)としてなら公園でビールやワインが販売でき、また、私たちは公共の場でそれが飲めるのだ。つまり来る日も明くる日も、公園では結婚式やパーティーと同様、何らかの「イベント」が開催されており、私たちはその「イベント参加者」であり、アルコール飲料を提供しているバーは、おっと、バーではなくて、ただの「ケータラー」なのである。

飲食業の妙案のおかげで、馬に跨った警官がぽこぽこ前を通っても、ワイン片手に大きな顔をしていられるのだ。

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タマネンド(愛称タマニー)は今日も亀に乗っている。

ヴィンセントギャロは一日中、豆知識を披露する。

例えば、高速の入口で一人淋しく亀の上に立つこの男。フィラデルフィアが治められた当時、デラウェアバレーに居住していたレナぺ族の首領タマネンドの彫像である。亀の穏やかな表情が良いねと私が言ったら、ギャロが目を輝かせて、愛称はタマニーといい(亀じゃなくて首領ね)、自然の大地を象徴する亀に乗っている姿がよく描写されると教えてくれた。街の歴史に深く係わる人物だが、周りに高速道路ができてしまい、タマニーは少し可哀想なロケーションにポツンといる。

市役所の天辺に誰かが立っているように見えるので、ハーパーリーに尋ねてみると、

「ああ、あれはベンジャミン・フランクリンの彫像…だとずっと思いこんでて、人にもそう教えていたんだけど、実はウィリアム・ペンらしい」

すると、後ろでメガトロンと話し込んでいたのに、少し速足になってこちらに来るギャロ。

「正解はペンだよ!」

ウィリアム・ペンの生涯について講義されるとまた長くなるので、私も少しくらい歴史を知っていますよとアピールしてみた。

「フィラデルフィアの市を創った人ね。ペンシルバニア州の名前もペンから来ているんですよね。ペンの森という意味でしょう」

ギャロがほほうという顔をするが、まだ話したいことがある様子だ。

「ペンの呪いの話、聞いたことない?」

「ペンの呪い?」

割と最近まで、市役所の頂点に立つペンの彫像よりも背の高い建物を建設してはならないと、ゆるい規定がフィラデルフィア芸術協議会に存在したとか。しかし1987年に One Liberty Place という街で初の高層ビルが市役所からわずか三ブロックの場所に建ち、三年後には姉妹ビルの Two Liberty Place がオープンする。ペンの帽子を見下ろすような高層ビルが建ったとたん、それまで好成績だったフィラデルフィアのあらゆるスポーツチームがぱたりと優勝しなくなってしまったのである。これはペンの呪いだ、と街の人々は嘆いた。

メガトロンが街のスカイラインを見上げる。

「へ~。確かに高層ビルが少ないと感じてたけど、規制されてたんだね」

するとリバティープレイス二号が街で一番背の高い建物なんですかと訊くと、そうではない。現在一番背の高い建物は2007年にオープンしたコムキャスト(アメリカの大手ケーブルテレビ・情報通信企業)センターである。

「あそこに見えるのがそうさ」とギャロがガラス張りの青がかったビルを指さす。

「何の浪漫もない建物だけど、コムキャストのおかげでペンの呪いはやっと解けたんだ。長年応援しているスポーツチームが負けてばかりでウンザリしていた建設会社の作業員が、ビルの頂点の梁に、土産物屋で売っているような小さなウィリアム・ペンのフィギュアをくっつけたんだ。ペンはそれで再び街で一番背の高い者になったのさ」

野球チームのフィラデルフィアフィリーズは、翌年のワールドシリーズで見事優勝を飾った。


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# by majani | 2015-08-21 11:18 | 旅に待ったなし

+1のフィラデルフィア

私は来年、結婚する。その準備で一時帰国をしていたが、日本から戻ってきた翌日にサンフランシスコ空港にとんぼ返り。婚約者の旧友がフィラデルフィアで結婚をするので、私も久々に東海岸へ飛ぶことになったのだ。

まさにアメリカはウェディングシーズン真っ只中である。ここで旅の記録を交え、日本の結婚式とフィラデルフィアで出席したアメリカ式のそれを照らし合わせ、異なる点をいくつか挙げてみようと思う。

まず、アメリカの結婚式に呼ばれた場合、夫婦でなくとも「プラスワン」を、つまり彼氏・彼女を連れて行くのが一般的だ。招待状の返信時にプラスワンの有無を記す。因みに恋人と一緒に結婚式に出席することは、「一緒に住む」・「家族に会う」にやがて結びつくかもしれない二人の恋愛関係の大事な節目とされている。

私は旧友マイケルジャクソンくんに一度も会ったことがないが、プラスワンとして式に出席することになった以上、マイケル他、大勢の知らない人とスモールトークを上手にこなさなければならない。真夜中の飛行機の中、婚約者の大学時代の写真をもう一度見て、マイケルジャクソンと親しい来賓者の顔や名前を頭に叩き込んだ。

フィラデルフィアに到着すると朝になっている。レンタカーで都内へ。

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さすがは歴史のある街フィラデルフィア。郵便局までが立派だ。

初めての街なので迷いながら車を走らせていたら、リバティーベルなどがある人気観光スポットのごちゃごちゃした道に出てしまった。馬車が公園周辺にずらりと停まっている。「馬が好きなら、バスに乗れ」と抗議している動物愛護者の集まりも見かける。

ダウンタウン(だったのか?土地勘がない)の静かな一帯にひとまず逃げ込むと、一日中ブランチが頼めるカフェを発見。Café Lift という。ひと気が無い通りでも、いったんドアを開くと、ワッと賑やかだ。パイプがむき出しの高い天井とミニマルな椅子でがらんとしたインダストリアルな雰囲気を醸し出していて、なんだかサンフランシスコっぽい。食べに来ている若者もそれ風の髭を生やしていたり、大胆なサマードレスにスニーカーを合わせていたり。

ベーコン、スクランブルエッグとフォンティナチーズを包んだ、ほのかに甘くデリケートな crespelle (イタリア版のクレープ)がテーブルに運ばれてくる。これにメープルシロップをかけて、チーズとベーコンに絡ませながら食べる。コーヒーのおかわりをもらうと、飛行機の疲れが一気に吹っ飛ぶような気がした。

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フレンチビストロ、Caribou Café 。

さて、ブランチを食べたばかりだが、彼は新郎マイケルジャクソンとランチを食べに中華街へ向かい、私はチェスナット街の Caribou Café で、この街に住む大学時代の友人と待ち合わせ。去年結婚したハーパーリーと、ご主人のヴィンセントギャロ、そして最近サンフランシスコに遊びに来ていた医者の卵メガトロンだ。

「ところで、今夜どこに泊まるのよ?」とハーパーリー。「友人カップルたちとのディナーに呼ばれてるんだけど、あなたたちと飲めるんだったら、そのほうがいいわ、私」

ハーパーリーは一番若くして妙に大人っぽい喋り方なので、思わずふふと笑ってしまうことがある。

「ええと、フォートワシントンとかいう所」

「都内じゃないの?なんだ、郊外ならうちに泊めてあげたのに」

「彼らのウェディングウェブサイトによると、このホテルが式場に近いんだって」

「そういえば、あなたたちもウェディングウェブサイト作ったの?」

さて、このウェディングウェブサイトというもの。ちょっとした曲者である。

結婚情報サイトではなく、新郎新婦本人たちが設置するサイトで、挙式・披露宴の場所、日時、ドレスコード等の詳細を載せる。(全ての情報がここに集まっているため、その分、招待状は概要だけでアッサリしているケースが多い。返信も最近はウェブ上で行われる。)また、二人の写真やなれそめ等もここで紹介するのだが、アメリカ人はベタベタしている写真や、読んでいるほうが赤面してしまうような二人のラブストーリーを堂々と載せているので凄いなと思う。

実際に彼と一緒にウェブサイト製作に取り組んだ。突貫工事ですぐできるさとバカにしていたら、これが想像以上にトリッキー。「皆に結婚式に行きたいと思ってもらえるようなエキサイティングな文章が欲しい」とか、「なれそめのページを一応作りたいけれど、自分たちの写真は載せたくないから、ここもやはりエキサイティングな文章で補う」とか、「というかこのエキサイティングな文章は誰が考えるのだ」、「やっぱり写真載せるか」と二人で議論しているうちに一週間が消えている。

「ハーパーとギャロの時は、なれそめのページがなかったよね」

「なくてもいいのよ、そんなもの。まあ私たちの場合は、どう考えても載せられなかったけど」

付き合い始めた当時、ハーパーは若き学生インターンで、ギャロはその上司だったのだ。

「あの時は私たちも心配したけど、ギャロがいい奴で良かったよ!結果オーライだったね」

とメガトロンが、うんと年上のギャロの厚い肩をぽんと叩く。

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重要なことに、アメリカの結婚式はご祝儀がない。

新婚生活に役立つ物を贈るのが一般的であるが、近年は、新郎新婦のウェブサイトにリンクされている、ウィッシュリストと同じ働きを持つ「レジストリー」を使うのが主流。新郎新婦が大手デパートや家具・キッチン用品店に登録し、事前にショップで選んだ品をレジストリーに表示する。参列者がその中からプレゼントを購入すると、店から新郎新婦に送り届けられるという仕組みだ。本人たちが欲しい物だと確信が持てるほか、式当日にかさばる物を運ばなくて良いのが利点としてある。アメリカらしい合理性が備わっているシステムだ。

しかし、最近は少し日本式になりつつある。若い人たちは既に同棲していることが多く(場合によっては何年も)、新しい家具や高級食器を貰ってもしょうがないというカップルが増えているせいか、物の代わりにヨガクラスの費用や新婚旅行資金など、カップルとしての「体験」をレジストリーに載せることが流行っている。「学生ローンを払い戻すのを手伝う」なんてのも知人のレジストリーで見たことがある。新婚生活とあまり関係ないような気がするが、伊達に自由を愛する国じゃないからね。それにしても「ローンを払い戻す」まであるのに、ただの「お祝い金」がないのは不思議である。

アメリカの結婚式は何回か出席しているので何となく流れの予想が付く。挙式が済んだ後、カクテルアワーといい、お酒とちょっとしたおつまみを楽しみながらゲスト同士での歓談がある。マイケルジャクソンの結婚式では、チーズプレート、プロシュートやサラミ、ガスパチョ(夏なので)、フルーツなどが出た。次に食事、そしてファーストダンス。ダンスパーティーでお開き。

踊るのが嫌いだと主張していた婚約者であるが、マイケルジャクソンにダンスフロアに引きずり出されてしまった。汗を流したら少しは気が変わったのではないかと尋ねると、自分の結婚式では絶対に踊らないからっと叫び、拗ねてしまった。そんなに嫌いだったのかと唖然としていると、急に「ワルツなら踊ってもよい」と言う。ワルツはスローに見えて意外と難しいのですよ。

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アメリカの式には珍しく、午後の早い時間に解散。街に戻って二人で夕食を食べることにする。

リッテンハウス・スクエアの近くのイギリス風パブレストラン、 The Dandelion へ。ダンディライオンといえばタンポポのことだが、「ダンディーなライオン」とかけていて、シルクハットを被ったこ洒落たライオンが、店の看板、メニューの表紙、気が付けばそこにいる。

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チキンとダックのレバーパテと、粒マスタードが利いたウサギのパイを注文した。さらにパブフードの花形、アツアツのフィッシュアンドチップスを二人で分ける。キャスク(ビール樽の種類)の中で発酵させ、減菌処理をせずそのまま容器から注がれるキャスクエールも試してみる。その甘酸っぱさは、とろりと蒸し暑い夏の夜にぴったりだった。

酔い覚ましに、リッテンハウス・スクエアの周りをぶらぶら歩いた。遅い時間なのに、まだ人がオープンエアカフェで一杯飲んだり、小さな劇場の前で列を作ったりしている。フィラデルフィアは、地元の人が真に街を楽しんでいるような感じがして、とても気に入った。

フィラデルフィア旅日記、続く。


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# by majani | 2015-08-19 12:31 | 旅に待ったなし

シンガポールスリング

シンガポール旅行記の続き。午後、近場のラッフルズホテルのアーケードを散歩する。

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日中はサラリーマンだらけのビジネス街。しかしラッフルズホテルに一歩踏み入ると、急に白人のおじさんがパナマハットの鍔に指をあてて、「お嬢さん、ご機嫌いかが」と声をかけてくるような世界である。なんだかコロニアル時代にタイムスリップしてしまったような気分だ。

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「ご機嫌いかが」なんて今時聞かないので、思わず「ご機嫌よいです」と変な返事をしっかりしてから、中庭で一休み。

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ラッフルズホテルのギフトショップに立ち寄った。20年前も同じデザインだった、Where else should one partake of the Singapore Sling but at Raffles Hotel ? のタグラインが印象的なヴィンテージ風のポスターは、今もギフトショップの定番アイテム。

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せっかくなので、例のシンガポールスリングをパーテイクしよう!ということになり、両親とピーターパンさんと二階のロングバー(Long Bar)に向かった。

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重厚感たっぷりのらせん階段や、昔ながらの文字通り「長いバー」は、ラッフルズホテルらしい古風なロマンがある。おつまみの落花生の殻は、そのまま床に捨てる。

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シンガポールスリングは色も味もフルーツポンチみたいで、じゅっと一気に飲んでしまいそう。普段だったら頼まないと思うけど、常夏に合う甘いドリンク。

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レシピがカクテルメニューに堂々と載っている。別に秘密でもないようだ。しかし、集めるのがちょっと面倒くさい材料ばかり。家で作るとしたら、使いまわしがきくのはジンとライムジュースくらいか。

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しつこいですが、シンガポールスリングはラッフルズホテルのものですよ。

ラッフルズホテルの有名なハイティーは行かず。と言うと何らかの決意があったようだが、実はふらりと立ち寄ったら、父とピーターパンさんが短パンだったので入れてくれなかったのである。女性は何を着てても良いが(ゴム草履は駄目かも)男性は長ズボンとドレスコードが決まっている。私はよくふらりと、計画せずにどこかへ行くと良いことがあると主張していますが、今回は計画しておくべきでした。

そういえば、幼少の頃、母と叔父と三人でハイティーをしにラッフルズに来たことがあった。

もう20年も前の話なのでメニューは変わっていると思うが、ハイティーのブッフェには(ラッフルズに限らず)当たり外れがある。私は子供なりにティールームの厳かな雰囲気を肌で感じ取っていたのか、あまり一つの品だけを沢山取らないようにしていた。まず少しずつ美味しそうなものを試食し、その中からアタリだった物だけをおかわりしようと考えた。そしてその日、大当たりはズバリこれだ!と思ったのは、とても小さなミートパイだった。

ミートパイといえば、イギリスの庶民的なパブフードで、あまり美味しくないとされているが、20年前のハイティーで食べたそれは泣きたくなるほど美味しかったのだ。マカロンのサイズで、黄金色のペーストリーをフォークでさくっと割ると、中からジューシーなお肉がこぼれ出てきて、外生地のバターの優しい甘味とお肉の塩辛さがふわっと口の中に広がり、天国に行った気分になる。そんなミートパイだったのだ。

あまり美味しくなかったものも律儀に食べきった子供の私は、ミートパイをもう一切れ食べに行こうと席を立った。ワクワクしながらブッフェに行くと、そこに叔父の姿が。そういえばさっきからずっとテーブルに帰ってこなかった叔父であるが、上品な小皿の上にミートパイで巨大なピラミッドを築いているのを私は目撃した。私はあんなに(意味なく)遠慮していたのに、叔父はミートパイをこっそり全部食べようとしている!大人なのになんてズルいんだ!私は叔父を怒った。

最近、ハイティーでミートパイを盗られた悔しい思い出話を叔父にしたら、当時のシンガポールは良かったなあ、贅沢だったなあなどと健全な感想だけで、本人は全く記憶にないらしい。すると、ニューヨークで夕飯を食べに行ったときは、君は僕のデザートまで食べてしまったぢゃないか、と今度は私が記憶にない思い出話をされる。はて、そんな失礼なことを私がするかしら。記憶は頼りない。果たしてミートパイなんかハイティーに本当にあったのだろうか。

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幻のミートパイはさておき、シンガポールの思い出の食べ物と言えば、カヤジャムである。卵とパンダンの葉のエキスから作られたうぐいす色のカヤジャムと、厚く切ったバターを挟んだトースト、とろとろの半熟卵、そしてコピ(甘くしたコーヒー)。シンガポールの朝食といったらこれだ。

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ラッフルズホテルのギフトショップでカヤジャムを一瓶買った。ラッフルズというブランド名にお金を払っているようなもので、普通のスーパーではうんと安く買えるカヤジャム。

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米国に戻ってきてやっと探し当てた。分かりやすいラベル!何種類かあり、もう少し茶色がかった種類もあったが、緑が強い方が何となく美味しいような気がする。

これでシンガポール旅行記も終りだが、最近はカヤジャム(ジェネリックな方)とバターを挟んだトーストで、シンガポール式に朝が始まる。


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# by majani | 2015-06-30 15:43 | 食べる人々

カリフォルニア、ニューヨークを経て、ボストンにやってきた学者のブログ。海外生活、旅行、日常の記録。たまに哲学や語学に関するエッセイもどきも。


by majani